みかん小説
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"優先的に妹さんと" 第10話

赤字の損益計算

その夜を境に、私たちの活から「音」が消えた。

朝、真紀がリビングにてくる気配がすると、私は急いで洗面所をて靴を履いた。夜、私が帰宅すると、真紀の部のドアはすでに固く閉ざされていた。

台所には、真紀が自分の分だけ洗って伏せられた器がポツンと置かれていた。かつてで選んだペアのマグカップは、私のものだけが器棚の奥に追いやられていた。

戦状態のまま週が過ぎたの初旬、私は職で県庁支への引き継ぎ作業に追われていた。

そんな折、母から本の連絡が入った。真紀が勤めていた品系の堅商社で規模な期退職の募集があり、真紀がそれにを挙げて先末で退職したというらせだった。

母は話で取り乱していた。「あんたがをていくから、真紀がおかしくなっちゃったのよ! 無職になってどうするつもりなの!」と泣き叫ぶ母の声を、私は「ごめん、今仕事だから」と械に切った。

退職したことすら、私はらされていなかった。

姉の活から、私のは完全に排除されつつあった。それが本来あるべき「者との距」なのだと自分に言い聞かせながらも、胃の底に鉛を流し込まれたようない喪失が消えなかった。

曜。久しぶりにれの広がった午だった。

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私がリビングで引っ越しのための段ボールを組みてていると、真紀の部のドアが静かにいた。

真紀はメイクもせず、髪をろで束ねただけの無防備な姿だった。そのには、角の擦り切れた茶封筒が握られていた。

真紀は段ボールのを避けるようにして歩き、ダイニングテーブルの端に腰をろした。

「由里」

週ぶりに聞く姉の声は、し嗄れていた。

「ちょっと、見てほしいものがあるの」

私はガムテープを置いた。警戒と戸惑いが入り混じったまま、テーブルの向かい側の席に座る。

真紀は茶封筒から、ホチキス留めされた数枚のコピー用を取りし、私の方へ押しやった。番のには、きでこうかれていた。

『喫茶・軽「青葉」 事業承継および運営計画』

「……これ、何?」

「の会社で緒だった同僚の、佐伯さんってってるでしょ。あのの親戚がやってる喫茶なの」

真紀は膝ので指を組み、伏し目がちに話した。

「駅の商のれにある、古い純喫茶。マスターが齢で体調を崩して、今いっぱいでを畳むことになったの。居抜きでそのまま引き取ってくれるを探してて……佐伯さんとで、そこを引き継いでやろうかとってる」

私の体ので、融関の職員としての徹な本能が反射に目を覚ました。

をめくる。

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真紀が慣れなつきで清したらしい、過期分の青申告決算の数字が並んでいた。

売は々肩がり。客単価は百円。エスプレッソマシンや蔵ショーケースは導入からが経過しており、いつ壊れてもおかしくない。は商のメイン通りから本入った裏で、が狭く認性が極めて悪い。

おまけに、提示されている造作譲渡料は百万円。保証とわせれば、初期費用だけで持ちの退職がほぼ消しぶ計算だった。

プロの融資担当者として見れば、秒で「融資」のハンコを押すレベルの、救いようのない赤字案件だった。

「……退職、全部突っ込むつもり?」

私の声に、抑えきれない厳しさが混じった。

「佐伯さんと半分ずつす予定。残りの運転資は、商会議所の創業融資をし借りて……」

「甘すぎるよ」

数字を見た瞬、過の習慣が首をもたげた。私は類の粗を指先で叩きながら、でまくしてそうになった。

原価率の計算が甘い。件費を甘く見すぎている。古い配管の修繕費はどうするのか。そもそも、未経験のがいきなりを始めて半き残れる確率がどれだけいかっているのか――。

「やめなよ」という言葉が、喉元までかかった。

だが、その瞬。

ふと顔をげた私の目にび込んできたのは、唇をきつく引き結び、私の顔を怯えるように窺っている真紀の姿だった。

その瞳の奥には、恐怖とに震えながらも、消え残ったさな炎のようなものが確かに宿っていた。

かつての真紀ではなかった。誰かに「いいよ」と言ってもらうのを待っている顔ではなかった。

私は、をけたまま固まった。

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