"優先的に妹さんと" 第9話
私たちの境界線
玄関のたい空気が、元からいがってくるようだった。
真紀は套も羽織らず、の部着のまま、私の正面にっていた。その瞳は赤く充血し、信じられないものを見るように見かれていた。
「どうしてって……」
私は靴を揃え、壁に背を預けるようにしてった。自分の声が、平静を装うあまり自然なほど乾いているのが分かった。
「まだ内示の段階だったから。正式な辞令がるのは来週だし、決まってからちゃんと話そうとってたの」
「決まってから?」
真紀の声が、裏返るようにくなった。
「決まってから報告するなんて、そんなの事承諾じゃない! 引っ越すんでしょ? で借りたこの部はどうするの? 賃の折半は? 私の活はどうなるの? そういうこと、全部で決めたに『決まりました』って言うつもりだったの!?」
「賃は私が今まで通り半分払うよ。お姉ちゃんがでみ続けるならそれでいいし、実に戻るなら解約続きも私が全部やる。迷惑はかけないように計算してる」
「計算!?」
真紀の両が、激しく宙を振った。
「また計算なの!? 私がってるのはおの話じゃない! どうして私に相談してくれなかったのかって聞いてるの!」
「だって、これは私の仕事のことだから!」
私もまた、喉の奥に溜まっていたい塊を吐きしていた。
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「歳にもなって、自分の会社の異を受けるかどうか、どうしてお姉ちゃんの許を取らなきゃいけないの? 私たち、もう自したでしょ? 互いに踏み込みすぎない境界線が必だって、そう言ったのはお姉ちゃんの方じゃない!」
「境界線……?」
真紀のきが、凍りついたように止まった。
姉の顔から、急速にりの潮が引いていった。代わりに浮かびがってきたのは、々と傷つけられた特の、え切った絶望だった。
「由里。あんた、今なんて言った?」
「……境界線を持とうって」
「笑わせないでよ」
真紀が掠れた声で笑った。涙が、姉の頬を静かに伝い落ちた。
「じゃあ、教えてよ。どうしてあんたのは『あんたで決めること』で、私のはずっと『私たちのこと』だったの?」
胸の奥を、鈍器で殴られたような衝撃がった。
「私が仕事を辞めるも、婚するも、再婚相を探すも、あんたは当たりのように私のの真んに座ってたじゃない! 『お姉ちゃんのためだから』『失敗しないように』って、私の選択肢をつずつ潰して、あんたの正しいとうを選ばせてきたじゃない!」
「それは、お姉ちゃんが訊いてきたから……!」
「私が訊いたから? 訊かせたのはあんたでしょ!」
真紀の叫びが、狭い廊に反響した。
「あんたは私がしでも迷うと、すぐに『それは損だよ』『リスクがすぎるよ』って、正論の壁を作った! 私が自分で選ぼうとすると、呆れたような顔をして、ため息をついた! そうやって私が自分ので考える自信を全部奪っておいて……自分だけは『の境界線』なんて綺麗な言葉で逃げるわけ!?」
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真紀は歩、私に詰め寄った。その瞳が、私のの最も暗く醜い部分を暴きてるように見据えていた。
「あんたは私を守ってたんじゃないよ、由里」
言言が、私の胸を抉り取っていく。
「あんたはただ、妹のくせに族ので番賢くて、失敗しなくて、誰からも謝される『派な自分』に酔っていただけよ!」
「……やめて」
私のから、惨めな懇願が漏れた。
「やめてよ、お姉ちゃん……」
「私のを自分の正しさの証に使わないで!」
真紀はそれだけ言い捨てると、寝へ駆け込み、扉を激しく閉めた。
鍵のかかる音が、カチャリと響いた。
暗い廊に、私が取り残された。
反論の言葉は、何ひとつ残っていなかった。真紀の言葉のすべてが、痛いほど真実だったからだ。私は崩れ落ちるようにそのにしゃがみ込み、たいフローリングに額を押し当てた。