"優先的に妹さんと" 第8話
県庁支への辞令
曜の午、私は信用庫の支に呼ばれていた。
な革張りのソファに腰掛けると、支は髪混じりのをげ、枚の内示をテーブルのに差しした。
「付で、県庁支への異をお願いしたい」
類の文字を見つめたまま、私は指先を膝ので握りしめた。
県庁支。この方の信においては事実の本枢であり、融資管理課の主任ポストへの昇格をしていた。代半の女性職員としては異例の抜擢だった。
「君の事務処理の正確さと、案件のリスク管理能力は本部でもく評価されている。どうだろう、受けてもらえるか」
支の穏やかな声を聞きながら、私のをよぎったのはの来事だった。
当も度、本部への栄転の話があった。だが私は、真紀が婚して半も経っておらず、活が定だったことを理由に、迷わず断っていた。『姉がまだでは暮らせないので』と。
あのの自分は、族を優先する健気で派な妹のつもりだった。
だが本当は、姉を言い訳にして、自分自のキャリアや未の世界に踏みす責任から逃げていただけではなかったか。
「県庁となると、ここからで半かかりますね」
「通勤できない距ではないが、激務になる。
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くの職員はくに単で部を借りているよ。もちろん、宅当は限までる」
部を借りる。
それは、真紀と暮らしているこの2LDKをることをしていた。
喉がカラカラに乾いていた。今ここで「し族と相談させてください」と言うことはできた。に持ち帰り、真紀に「こういう話があるんだけど、どうう?」と聞くこともできた。
だが、もし真紀に相談したら?
真紀はきっと、寂しそうな顔をしながらも「由里のキャリアのためだから」とを引くだろう。そして私は、「姉をにして見捨てた」という罪悪を抱えながら暮らすことになるのか。あるいは、姉が「かないで」と言ってくれることを密かに期待するのか。
私はく息を吸い込み、背筋を伸ばした。
「ありがとうございます。んでお受けいたします」
自分の声が、驚くほど澄んで響いた。
「そうか、受けてくれるか。期待しているよ」
支をた、湯の鏡に映った自分の顔は、青ざめていたが、どこか腹を括ったような目をしていた。
のの決定権を握ることで自分を保つのは、もうやめるのだ。
ならば、私自もまた、自分ののい決断を、誰の承認も得ずにで背負わなければならない。
そのの夜、私は残業を終えて午過ぎに帰宅した。
リビングの扉をけると、かりので真紀がダイニングテーブルに座っていた。
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夕飯の片付けはすでに終わっており、テーブルのにはスマートフォンの画面が置かれていた。
真紀は私の顔を見るなり、すっとちがった。そのには、まだ握りしめられていたスマートフォンのが残っているようだった。
「お帰り、由里」
声のトーンが、いつもと違っていた。く、たく、張り詰めていた。
「……ただいま。どうしたの、こんなまで起きてて」
私が靴を脱いでがろうとすると、真紀はテーブルののスマートフォンを指先で叩いた。
「さっきね、お母さんから話があったの」
臓が嫌なリズムでねた。
「お母さん、昼にあんたの職のくで、支の誰かとお茶したらしいわよ。『由里ちゃん、県庁のきい支に栄転なんですってね、おめでとうございます』って言われたって」
私は息を呑んだ。方の信ならではの、筒抜けの噂話のさだった。
真紀が歩、私の方へ歩み寄ってきた。その瞳には、かつて見たこともないほどのい亀裂と、剥きしの裏切りへのりが燃えていた。
「県庁支って……引っ越すんでしょ? ここをて、で暮らすんでしょ?」
「お姉ちゃん、それは……」
「どうして?」
真紀の声が、静かに震えながら廊に響いた。
「どうしてこんな事なこと、私に言も相談してくれなかったの?」