"優先的に妹さんと" 第7話
頼りになる子
曜の午、仕事を終えて戻ると、マンションの玄関に見慣れたエンジの靴が揃えて置かれていた。
母の富子だった。今で歳になる母は、で分ほどれた実で暮らしをしている。
「あら、由里、かったわね」
リビングのローテーブルに、タッパーに入った煮物や酢の物を並べながら、母は何わぬ顔で顔をげた。
「お母さん、連絡もなしにどうしたの」
私がバッグを置くと、母は「これ、所のにたくさんもらった筍」と言って、元のタッパーを指さした。だが、母の用件が煮物の差し入れだけでないことはだった。
真紀はまだパートから帰っていなかった。
母は急須からぬるくなった緑茶を湯呑みに注ぎ、すすると、探るような目で私を見げた。
「瀬さんから話があったわよ」
胃のあたりが、ずしりとくなった。
「……何て?」
「何てって、あんたたちがお見いの席で騒ぎして、相澤さんってに恥をかかせたって。瀬さん、カンカンだったわよ。『お宅の娘さんたちは、体何をしに相談所に来てるんですか』ってね」
「瀬さんが勝にお見いのに余計なこといたからでしょ。私たちがるのは当然じゃない」
私が反論すると、母は眉をひそめ、面倒そうにを振った。
「瀬さんも昔気質のだからやり方は極端だけど、言ってることは違ってないじゃないの」
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「違ってない?」
「そうよ。真紀は昔から優柔断で、ぼんやりしてて、何ひとつ自分で決められない子なんだから。あんたがしっかり見てやって、おかしな男に引っかからないように弾いてやるのは当たりでしょうが」
乾いた笑いが、喉の奥から漏れそうになった。
母は本気で言っていた。悪気など微もなく、それがこのの最も正しいルールであると信じ切っている調だった。
「お母さん、本気でそうってるの?」
「何言ってるの。昔からそうだったじゃない。選ぶだって、真紀がどっちの学にするか決められなくて泣いてた、あんたが制や学実績を調べて『こっちにしなよ』って背を押したんでしょう? 真紀が婚しただって、あんたがテキパキ続きしてくれなきゃ、あの子、慰謝料も取れずに追いされてたわよ」
母の言葉が、私の過の記憶を次々と掘り起こしていく。
父が突然の脳梗塞で倒れ、入院続きや保険の請求に追われた代半ば。泣き崩れる母と、オロオロするばかりの真紀の横で、役所の窓をり回ったのは私だった。
親戚同が集まった席で、伯父や叔母はを揃えて私を褒めちぎった。
『由里ちゃんは本当にしっかりしてるね』
『真紀ちゃんはおっとりしてるから、由里ちゃんがいてくれてお母さんもだわ』
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『頼りになる妹さんを持って、真紀ちゃんは幸せ者だよ』
あの、私は誇らしかった。
傷つきやすく頼りない姉の代わりに、自分がこの族を支えているのだという万能。誰からも必とされ、誰からも謝される「頼りになる子」という役割。
母はリンゴの皮を剥きながら、事も無げに続けた。
「真紀はね、誰かに引っ張ってもらわないときていけないの。だからあんたが、ちゃんとした相を選んでやりなさい。あんたの鏡にかなうなら、違いはないんだから」
背筋に、たい汗が流れた。
私と真紀の関係をこう歪ませたのは、私の傲さではなかった。
「真紀は決められない子」「由里はしっかりした子」。
幼い頃から族全員で共し、疑いもせずに化し続けてきた呪いだったのだ。真紀は無力であることで族のに居所を作り、私は支配することで価値を証してきた。
「……お母さん」
私の声は、自分でも驚くほどく沈んでいた。
「もう、そういうの、やめようよ」
母は怪訝そうにを止め、剥きかけのリンゴを持ったまま私を見げた。
「何がよ」
「私が決めるのも、お姉ちゃんに決めさせるのも。……全部、違ってたんだよ」
玄関のドアがく音がした。真紀が帰ってきたのだ。
母は「あ、真紀が帰ってきたわね」と声を張りげ、何事もなかったかのようにリンゴを皿に並べ始めた。
私はち尽くしたまま、暗い廊の先を見つめていた。何かが、決定に崩れろうとしていた。