"優先的に妹さんと" 第2話
目の返事
「……何ですか、これ」
真紀の声は震えていた。りというよりは、たいを背に流し込まれたような怯えが混じっていた。
「私が頼んだわけじゃないわ。こんなこと、言も……!」
相澤さんは真紀の狼狽ぶりを見て、すべてを察したようだった。鏡のブリッジを指先で押しげ、い溜息をついた。
「どうやら、私の方がとんでもないき違いに巻き込まれたようですね」
「相澤さん、申し訳ありません」
私がをげようとすると、真紀が私の腕を掴んだ。その指先が痛いほどい込んでいた。
「由里、くよ」
真紀は相澤さんにく礼すると、返事も待たずに踵を返した。にラウンジをていく姉の背を、私は急いで追った。
ホテルをて徒歩分。古い雑居ビルの階にある結婚相談所『ブライダル瀬』のドアを、真紀は躊躇なく押しけた。控えめなベルの音が鳴り響く。
面談ブースの奥からてきたのは、落ち着いた藤のカーディガンを着た瀬子だった。今で歳。母とは来の付きいで、私たちの幼期もっているだ。
「あら、ともどうしたの? お見いのはまだ……」
「瀬さん、これ、どういうですか」
真紀が受付のカウンターに、先ほどのを叩きつけるように置いた。
瀬さんは鏡をかけ、きの備考欄に線を落とした。
広告
取り乱す様子も、言い訳を探す素振りも切なかった。ただ静かに息を吐き、鏡をした。
「私がきました」
「私の見いなんですよ!?」
真紀が叫んだ。普段、声を荒らげることなど滅にない姉の喉がひきつれていた。
「どうしてこんな嘘をくんですか! 私がまるで、自分で自分の結婚相も選べない無能みたいじゃないですか!」
「嘘ではありませんよ、真紀さん」
瀬さんの調はどこまでも淡々としていた。それが余計に、姉のを逆撫でする。
「私にはこんなことをする資格はありません。越権為ですし、相談所の信用を失うやり方です。それは認めます。申し訳ありませんでした」
をげながらも、瀬さんの目は揺れていなかった。彼女は顔をげると、カウンター越しに真紀を、そして私の顔をまっすぐに見据えた。
「でもね、真紀さん。過で、私はあなたにの方をご紹介しました」
。その数字に、私の胸の奥がチクリと痛んだ。
「どの方も誠実で、条件もっていて、お見いの席ではあなたと本当に楽しそうにお話しされていた。お相の男性からは、全員『ぜひもう度お会いしたい』とお返事をいただいたんです。でも、あなたは決まって翌にお断りの話を寄こされた」
「それは……ちゃんと考えた結果です」
「いいえ。あなたは話を切る直、毎回必ず同じ言葉をにするのよ」
広告
瀬さんは呼吸置き、真紀の目を逃さずに言った。
「『昨夜、妹に相談したら、やめておいた方がいいと言われたので』とね」
事務所の空気が瞬で凍りついた。
真紀の唇が微かにき、言葉を失って震えている。私はたまらずを挟んだ。
「瀬さん、それは姉が私に見を求めてきたから答えただけです! 最終な決定は、姉自がしています」
「そうかしら、由里さん」
瀬さんの徹な線が、私に突き刺さった。
「あなた、こので真紀さんが相談してきた回ので、度でもこう言ったことがありますか?」
瀬さんは私の目をじっと覗き込み、言ずつ区切るように言った。
「『私にはわからないから、真紀が自分で決めなよ』って」
声がなかった。
臓を直接素で掴まれたような覚がした。息を吸い込むことすら忘れて、私はち尽くした。
「失礼します」
け放たれたままの入りから、くい声が響いた。振り返ると、息を切らせた相澤さんがっていた。には真紀がラウンジの席に置き忘れていたカーディガンが握られていた。
彼は事務所ののただならぬ空気を瞥し、カーディガンをカウンターの端に静かに置いた。
「落とされましたよ」
「……すみません」
真紀が消え入りそうな声で言った。相澤さんは真紀に向き直り、静かに、しかしはっきりとした調で告げた。
「今はもう、普通にお見いを続けられる状態ではありませんね。ここで失礼します」
そして、彼は真紀の目だけを見て付け加えた。
「もし次があるなら、相談所を通さず、あなたご自の言葉で連絡をください。妹さんを挟まずに」
相澤さんはそれ以何も言わず、軽く会釈をして背を向けた。階段をりていく彼の靴音が、静まり返ったフロアに虚しく響き渡っていた。