"結婚式には来ないでと言った親友" 第10話
「自分で決めろ」という暴力
スライドドアをけ放ったワンボックスカーのに、川さんと私のが並んで戻った。
内の真由は、の気配を察して顔をげていた。彼女の頬には、先ほどまでなかった涙の筋がく残っていたが、川さんの崩れたスーツ姿と赤く腫れた目を見た瞬、息を呑んでを縮めた。
「真由」
川さんが、のステップに片を乗せるようにして、い声で呼びかけた。
先ほどのような鳴り声ではなかった。必にを押し殺した、どこか痛々しいほど穏やかな声だった。
「すまなかった。……僕、にって勝に止にしようとした。でも、梨さんに止められた」
真由は何も言わず、膝ので握りしめたい袋をただ見つめていた。
「君が今、ここまで何つ言えずに苦しんでたこと、僕、全然気づいてやれなかった。全部僕が決めて、全部僕のペースでめてきたんだよな。……もし、この結婚が嫌なら、嫌だって言っていい。君がやめたいなら、僕はそれに従う。だから……」
川さんは、息を吸い込んだ。
「君が、自分で決めてくれ」
その言葉が内に落ちた瞬だった。
それまで微だにしなかった真由の肩が、激しくねがった。
「……どうして」
蚊の鳴くような声だった。
真由はゆっくりと顔をげた。その表には、謝も堵もなかった。
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あるのは、極限まで追い詰められた特の、狂気じみた苛ちだった。
「どうして、そうやって最は私に全部押し付けるの?」
川さんが凍りついた。「え……?」
「『自分で決めていいよ』って、何それ? そんなの、番残酷じゃない!」
真由の声が、のコンクリートに甲く反響した。
、度も聞いたことのない真由の絶叫だった。彼女はいつだって柔らかく微笑み、「私は何でもいいよ」「みんなの都にわせるね」と、自分を削って空気を保つことだけにけただった。その真由が、ウェディングドレスの胸元をわしづかみにしながら、婚約者に向かってを剥いていた。
「親族も、友達も、みんなで待ってるのよ! 何百万もお払って、も飾って、料理も作らせて! 母さんは朝から嬉しそうに話してきて、拓のお父さんも親戚に挨拶回りしてて……そんな状態で『自分で決めろ』なんて言われて、誰が『やめます』なんて言えるのよ!」
真由の目から、止めどなく涙が溢れしていた。完璧にえられていたマスカラが滲み、い頬を汚していく。
「やめるって言ったら、私が全部壊したことになる! でも、このままりていったら、私は、自分の気持ちを殺してきていくことになる! どっちを選んだって獄じゃない! なのに、どうして誰も助けてくれないの!? どうして最は、私が悪者にならなきゃいけないのよ!」
彼女は両で顔を覆い、子供のように声をげて泣きじゃくった。
川さんはち尽くしていた。差し伸べようとしたは宙を彷徨い、触れることもできずに引き戻された。
私は胸の奥が張り裂けそうだった。
そうだ。これが、になるということの、そしてな決断をすということの、逃れようのない暴力性なのだ。
どれほど周囲が理解を示そうと、どれほど優しい言葉をかけようと、最に「自分のの引きを引く」という孤独だけは、誰にも肩代わりできない。優しさの顔をした「あなた次第」という言葉は、に最も逃げのない刃となって当事者を切り裂く。
真由は、ずっとその刃を喉元に突きつけられたまま、こので息を止めていたのだ。