"結婚式には来ないでと言った親友" 第9話
ハンドルを奪うな
階の湿ったコンクリートのに、私のパンプスの乾いた音が反響した。
「川さん!」
エレベーターホールので、私は股で歩く濃紺の背に追いつき、その腕を掴んだ。仕ての良いウールの触の奥で、彼のの腕が針のように張っているのが掌に伝わってきた。
「してください!」
川さんは私を振り払おうとした。その顔は蒼で、唇は血の気を失ってに変していた。代半の男が、公のでここまでを剥きしにして取り乱す姿を、私は職以で見たことがなかった。
「もういいんです。真由はあんなに震えてる。僕がもっとく気づくべきだったんです。あいつがずっと無理をして、僕にわせて、親にわせて……今まで断れずに来たんだ。だったら、僕が全部終わらせるのが筋でしょう!」
エレベーターのりボタンが、赤いを放って点灯していた。くの巻きげがガラガラと音をててき始める。
「筋って何ですか」
私は腕を掴んだまま、彼の正面に回り込んだ。
「にがって、親族ので何て言うつもりですか。『全部僕の責任です、式は止です』って座でもする気ですか?」
「それ以に何があるんですか! 真由を悪者にはできない!」
「それが傲だって言ってるのよ!」
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私の声が、暗い駐に鋭く突き刺さった。
くで巻きに見ていたホテルのスタッフが、ビクリと肩をねさせて顔を見わせるのが界の隅に入った。だが、今は周囲の目など気にしているではなかった。
「川さん、あなた今、自分がすごく男らしくて、彼女のためにをかぶる派なだとってるでしょう」
「……なっ」
「の私とまったく緒よ」
私の指先は、川さんのスーツの袖をく握りしめたまま震えていた。、ファミレスのえ切ったテーブルで、正論を吐き散らして満していた自分の浅ましさが、胃の奥から酸となってせりがってくるようだった。
「『あんたのために言ってあげてるのよ』って顔をして、相の迷いを勝に切り捨てて、番ドラマチックな幕引きを自分で選んでるだけ。……それ、真由を助けてるんじゃない。真由から、自分で決める権利を奪ってるだけよ」
チン、と抜けな子音が鳴り、エレベーターの扉がにいた。
無の籠のから、の効いた清潔な空気と、ロビーの華やかなピアノのBGMが微かに漏れてきた。だが、川さんのは止まっていた。彼はいた扉を見つめ、それから私を、最にくのハザードランプが点滅するワンボックスカーを見つめた。
「じゃあ……どうすればいいんですか」
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川さんの喉から、掠れた声が絞りされた。彼の肩が、急速に萎んでいく。
「僕だって、もうわからないんです。付きって、度もきな喧嘩もしなかった。何をべたいかも、どこにきたいかも、真由はいつも『拓の好きにしていいよ』って笑ってくれてた。……僕はそれを、居がいいとって甘えてたんです。でも、違った。あいつはずっと、僕に嫌だと言えなかっただけなんだ。そんな女を、僕は今、無理やり妻にしようとしてたんですか?」
男の目から、粒の涙が零れ落ち、緩んだネクタイの結び目に染みを作った。
「してるなら」
私は、彼の袖を掴んでいたをゆっくりとした。
「答えを代わりに選んであげるんじゃないの。迷ってるなら、その迷いを緒に引き受けるのよ。彼女が自分のでからりてくるのか、それとも自分ので『やめる』と言うのか……その瞬まで、隣で待つのが、あなたの仕事じゃないの」
川さんは、濡れた顔をの甲で乱暴に拭った。エレベーターの扉が、誰も乗せないまま静かに閉まった。
「……戻りましょう」
私が言うと、川さんはさく度だけ頷き、い取りで踵を返した。