"結婚式には来ないでと言った親友" 第8話
のノック
「だから、っ嫌いだったのよ」
真由の掠れた声が、からってきた。
顔をげると、真由は涙の滲んだ目で、かすかに笑っていた。
「あんたのそういう、絶対に自分が正しいとってるところ。の痛いところをで踏み荒らして、涼しい顔してるところ。本当に嫌いだった。だから、連絡しなかったの」
「……うん」
「でもね」
真由は、膝のの袋をぎゅっと握りしめた。
「今朝、みんなが『丈夫だよ』『真由ちゃんならできるよ』って、優しい言葉ばかり投げてくるのを聞いてたら……急に怖くなったの。みんなが私を『嫁』っていう役柄のに押し込めようとしてるみたいで。……その、いしちゃったのよ。昔、私の役柄を全部ひっぺがして、酷い顔で『本当はどうなの?』って聞いてきた、あんたの顔を」
真由はさく息を吸い込んだ。
「嫌いだったはずなのに、今このからりるために……あるいはりないために、あんたの顔が必だった。私、本当に都のいい女よね」
自嘲する真由の言葉に、私は首を振ろうとした。
そのだった。
ドン、ドン、ドン!
の窓が、先ほどのホテルスタッフとは比べ物にならないさで叩かれた。
ガラスのにいたのは、川さんだった。
彼のネクタイは完全に解かれ、シャツの第ボタンが引きちぎられんばかりにいていた。
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その形相は鬼気迫るものがあり、りと絶望で赤く染まった顔を窓ガラスに押し付けるようにして、叫んでいた。
「真由! けてくれ!」
川さんの鳴り声が、スモークガラスを突き抜けて響いた。
「もういい! もう分だ! 君がそこまで苦しんでるなら……僕が今すぐにって、式は止にするって言ってくる!」
真由の体が、直した。
「川さん……」
私が呟くのと同に、の川さんはさらに声を張りげた。その声は、完全に裏返っていた。
「親族にも、僕の職の司にも、全部僕からをげる! 『僕の際で止になりました』って言えばいいんだろ!? 君に恥はかかせない! だから……もう泣かないでくれ! 僕が全部終わらせてくるから!」
彼はそう叫ぶと、踵を返して駐のエレベーターホールへとりそうとした。
自己犠牲。男気。彼女をこれ以追い詰めたくないという、極限状態での優しさ。
だが、その背を見た瞬、私の全の毛穴が逆つような悪寒がった。
違う。
それは救済ではない。
川さんが今やろうとしていることは、の私がやったことと、まったく同じだ。
迷っている真由から決定権を奪い、自分の正義と憐憫で結末を肩代わりし、彼女を「守られるだけの無力な」へと突き落とす為だ。
もし今、川さんがに駆けがって式を止にすれば、真由は、その負い目を背負ってきていくことになる。
「私のせいで、彼にすべてを被らせてしまった」という消えない傷を抱えて。
「真由、待ってて」
私は真由にく告げると、迷うことなくドアロックを解除し、スライドドアを勢いよくけ放った。
たいの空気が気に流れ込む、私はハイヒールの踵をコンクリートに打ち鳴らしながら、エレベーターへと向かう川さんの背を追ってびした。
第3回 引き返せない所