"結婚式には来ないでと言った親友" 第5話
お母さんからの話
「あと分」という言葉を残してホテルの責任者がちった、駐には気なほどの静寂が戻ってきた。
くの送から、く唸るような械音が響いている。ナトリウムランプの黄いの、川さんがこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。彼の顔は青ざめ、額の汗を拭うことも忘れて、焦燥に駆られた取りでスライドドアへとを伸ばした。
私は咄嗟に、運転席のドアロックボタンを押し込んだ。
カシャリ、とたい属音が響き、側のハンドルを引こうとした川さんのが空を切る。
窓越しに、川さんが目を見張った。ガラスを叩き、「梨さん、けてください! 僕も入って話します!」と叫んでいる。その元のきが見えるだけで、声はほとんど通らない。
私は静かに首を横に振った。
彼が悪いわけではない。むしろ、郎として当然の反応だ。だが、今の川さんの顔には「なんとかしてこのを収拾したい」「これ以恥をかきたくない」という切迫が張り付いている。その焦りをそのまま内に持ち込めば、真由の直をさらにめるだけだ。
真由は、ロックの音にもじろぎつしなかった。ただ、膝のに乗せた両を見つめ、細い息を吐きし続けている。
その、部座席のアームレストのに置かれていたさなビーズのバッグが、ブブブ、とい振を始めた。
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真由の体が、流を通されたようにねた。
バッグの隙から、スマートフォンの画面がく滅しているのが見える。ディスプレイに表示された文字は、ひらがなで文字だった。
『おかあさん』
真由の呼吸が、ぴたりと止まった。
彼女は画面を見つめたまま、を伸ばそうとしない。まるで、そこに触れた瞬に爆発でもするかのように、瞳を激しく揺らしている。
私は携帯を取りげることも、代わりに話にることも、あるいは無するように促すこともしなかった。ただ、真由の袋越しに伝わってくるえ切った指先を、自分ので包み込んだ。氷のようにたいだった。
「……ないと、までりてくるよ」
私がく囁くと、真由は喉をかすかに鳴らし、震える指先で通話ボタンをスワイプした。スピーカーにする勇気はなかったらしく、彼女は受話部を元へと運んだ。
だが、静まり返った内では、受話器から漏れる母親のるい声が、残酷なほどはっきりと響いた。
『真由? 今どこにいるの? メイク、もう終わったんでしょう?』
母親の声には、片の疑いもなかった。娘のれ姿を待ち望む、純粋なびと揚だけが満ちていた。
『阪の叔父さんたちも着いたわよ。お父さん、もうビール杯んじゃってさ、拓くんのお父様とすっかり気投しちゃって。
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……みんな、あなたのドレス姿をく見たいって言ってるのよ。親族紹介、もうすぐ始まるんでしょう?』
真由の唇が、刻みに震えた。
「……うん」
絞りすような、掠れた声だった。
『真由? 声、どうかした? 邪でも引いたの?』
「ううん……なんでもない。ちょっと、メイクの直し、してもらってて」
『そう。綺麗にしてもらいなさいね。あ、カメラマンさんがね、控のの廊で待っててくれてるから。拓くんにも、よろしく言っておいてね。じゃあ、待ってるからね』
プツリと通話が切れた。
ツーツーという乾いた子音が途切れた瞬、真由のからスマートフォンが滑り落ち、元のフロアマットのに鈍い音をてて落ちた。
真由は両で顔を覆った。
ウェディングドレスの胸元が、激しくする。泣き声は漏れなかった。ただ、息を吸い込むことも吐きすこともできなくなったの、喘ぐような空気の摩擦音だけが響いていた。
「……もし、今ここでやめたら」
指の隙から、途切れ途切れの声が零れ落ちた。
「私、全員をめちゃくちゃにしちゃう。親も、親戚も、拓の族も、職のも……全員の顔に、を塗ることになる」
彼女の肩が、鳴をげるように軋んでいた。
これが、真由を縛り付けているものの正体だった。
彼女は結婚が嫌なのではない。目のにある「の好と期待」
という名の巨な力に押し潰され、呼吸ができなくなっているのだ。