"結婚式には来ないでと言った親友" 第4話
あと分
「どうして、私が怖いの」
私の問いに、真由は答えなかった。代わりに、彼女は部座席の窓のを見つめた。スモークフィルムの向こう側で、巻きにこちらを伺っている川さんのが、ぼんやりと揺れていた。
「みんなね、私の嫌を直そうとするの」
真由の声は、ひどく静かだった。
「『緊張してるだけだよ』って。『誰でも最初はマリッジブルーになるから』って。『拓さんはいいだから信じて』って。……みんな、私が本当は何を考えているかなんて、聞こうとしてくれない。ただ、く私が『丈夫です』って笑って、このからりて、スケジュール通りに式がむことだけを願ってる」
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
それは、悪のない暴力だ。誰も真由を傷つけようとはしていない。むしろ、彼女を祝福し、幸せにしようと必になっている。だからこそ、真由は拒絶できないのだ。優しい々に囲まれれば囲まれるほど、彼女の逃げは奪われていく。
「でも、あんただけは違った」
真由が、私の方へと顔を向けた。その瞳は、のあの夜と同じを宿していた。
「みんながおめでとうって言って、素敵な旦さんねって褒めて、準備で忙しい私に『幸せ太りね』なんて笑いかけてた……あんただけが、夜のファミレスで、私の目をまっすぐ見て聞いた」
喉が渇いた。
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私は唾をみ込んだ。
言わなくても、わかっていた。私が、彼女に突き刺したあの言葉だ。
「――『あんた、本当は結婚したいの?』って」
真由がその台をにした瞬、のたい烏龍茶のが、舌の奥に蘇るようだった。
「あの、私、本当にに来たのよ」
真由は自嘲気に微笑んだ。
「失礼じゃない。式も予約して、親戚にも案内状を送って、寿退社の続きまでめてたのに。『したいの?』なんて、そんなのするに決まってるじゃないって。あんたは私の幸せに嫉妬してるんだって、本気でそうおうとした」
「……真由」
「でもね、今朝、のドアに鍵をかけて、で閉じこもった……いしたのは、母の顔でも、拓の顔でもなくて、あののあんたの、酷く嫌で、傲な顔だったの」
真由の言葉は、私の胸を容赦なく抉った。だが、議とはなかった。それは紛れもない事実だったからだ。の私は、正しさを盾にして彼女を断罪したのだから。
「みんなは『丈夫』って言って私をさせようとする。でも、それって結局、私に『はい』って言わせたいだけでしょ。……あんたなら、私の顔なんて伺わずに、またあの酷い質問をしてくれるんじゃないかって、そうっちゃったの」
真由は、すがるような、それでいてどこか挑むような目で私を見ていた。
彼女は待っているのだ。
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と同じように、私が「そんなに迷うならやめなさいよ」「あんた、本当は結婚したくないんでしょ」と、彼女の代わりに結論をしてくれるのを。
『やっぱり、梨の言う通りだった』と、私を悪役にして、あるいは私を免罪符にして、この苦しい現実から逃げす許を与えてくれるのを。
私の唇が、無識にきかけた。
――だったら、やめればいいじゃない。
その言葉が、喉元までかかった。かつての私なら、秒の躊躇もなくそう言っていたはずだ。こんなところで震えているくらいなら、すべて放りしてしまえばいい。の期待なんてったことか、と。
けれど、私は言葉をみ込んだ。
目ので震えている真由の袋を見て、そしてでち尽くしている川さんの丸まった背をいして、踏みとどまった。
ここで私が結論をしてしまえば、と何も変わらない。
私はまた、彼女ののハンドルを奪い、自分の正しさを証するためだけに彼女を利用することになる。それは救済ではなく、ただの支配だ。
私はく息を吸い、真由の目をまっすぐに見つめ返した。
そして、には決してにしなかった言葉を選んだ。
「……川さんは?」
「え?」
「川さんのこと、好きだって言ったじゃない。緒に暮らしたいって」
真由は虚を突かれたように目を見いた。
彼女が期待していた反応とは、らかに違っていたからだ。
「うん……好きだよ。嘘じゃないよ」
「じゃあ、どうして」
私は断定しなかった。彼女の代わりに答えを言わなかった。ただ、問いとしてそこに置いた。
そのだった。
コン、コン、コン。
のスライドドアの窓が、い物で激しく叩かれた。
ガラス越しに、インカムをつけたホテルの婚礼責任者の男が、血相を変えてっていた。元にはバインダーを抱え、眉にはい皺が刻まれている。
私は窓のスイッチを押し、数センチだけ隙をけた。
「申し訳ありません!」
責任者の切迫した声が、隙から滑り込んできた。
「すでに定刻から分が経過しております。親族の皆様へのご説も、これ以は限界です。厨からも、お料理の入れの都、これ以の待は能だと連絡が入りました」
男は腕計を見せつけるように、ガラスの隙にづけた。
「お待ちできるのは、あと分です。午分までに婦様が控にお戻りになられない、本の挙式およびご披宴は、すべて『取りやめ』の扱いとさせていただきます。キャンセル料の規定も含め、もう猶予はございません!」
方にまくしたてると、男は々とをげ、にっていった。
たいの空気が、いた数センチの隙から内に流れ込んできた。
あと、分。
真由の体が、目に見えて張った。彼女が最も恐れていた「現実のコスト」が、確な数字となって目のに突きつけられたのだ。親族の目、支払った、キャンセルという名の破滅。
計の針の音が、静寂ので障りなほどきく響き始めていた。