"結婚式には来ないでと言った親友" 第2話
階のウェディングドレス
川さんの運転するセダンは、週末の朝の幹線を異常な慎さでっていた。
内には、特の革の匂いと、彼が緊張を紛らわせるために噛んだとわれるミントガムの甘いりが混ざりっていた。助席に座った私は、シートベルトの帯を無識に指先でなぞり続けていた。
「真由から、私のこと、本当に何も聞いていなかったんですか」
赤信号で止まった際、私はフロントガラスを見つめたまま尋ねた。
「ええ」
川さんはハンドルを握り直した。
「付きってになりますが、学代の話はあまりしませんでした。のアルバムも見せてもらったことがない。友の話になると、決まって『昔の友達とは、活環境が変わって自然と疎になっちゃったから』と笑って誤魔化すんです。……ただ、度だけ」
「度だけ?」
「の、私の実に挨拶にった帰りです。私の両親が、結婚式の規模や段取りについてあれこれをしてしまって、彼女、のでずっと黙り込んでいて。私が『嫌なら断っていいんだよ』と言ったら、彼女、ぽつりと言ったんです」
川さんの声が、わずかに震えた。
「『もし、いつか私が本当にどうすればいいかわからなくなったら、真っ先に私の嫌を取ろうとしないに会いたいな』って。
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そのは、何を言っているのかがわかりませんでした。でも今朝、ので頑としてかない真由のから『井梨』というフルネームと、あなたの勤め先がてきた、あのの言葉が急にに浮かんだんです」
私は答えず、窓のを流れる並みを見ていた。
真っ先に嫌を取ろうとしない。
それは真由なりの皮肉なのか、それともみ言なのか。の私なら、きっとで笑って「都のいいだけ頼るな」と切り捨てていただろう。けれど、歳になった今の私には、その言葉の裏にある真由の息苦しさが、痛いほど像できてしまった。
私の職である事調の待には、毎週のように「いい」たちがやってくる。配偶者の顔を伺い、義両親の求をすべて呑み込み、波をてないように微笑み続け、ある突然、糸が切れたようにけなくなったたち。彼らは決して鳴らないし、物を投げたりもしない。ただ、沈黙によって世界を拒絶するのだ。
は品川くの巨なホテルの駐へと滑り込んだ。
週末の午だというのに、階の奥まった区画は異様なほど静まり返っていた。巨なコンクリートの柱が規則正しく並び、黄いナトリウムランプが湿った空気を照らしている。
その角に、ハザードランプを点滅させた黒塗りのワンボックスカーがまっていた。
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の周囲には、ホテルのインカムをにつけた黒のスタッフが、所なげにっていた。私たちがをりてづくと、スタッフのが堵と焦燥が入り混じった顔で川さんに駆け寄ってきた。
「郎様、親御様が控でお待ちです。『まだ始まらないのか』と、お父様がし声を荒らげておいでで……」
「わかっています。もうしだけ待ってください」
川さんはそう言ってスタッフをで制し、私を振り返った。その顔は今にも泣きしそうだった。
「川さん、ここで待っていてください」
私は言った。
「えっ、でも……」
「勢で詰め寄ったら、余計に頑なになります。彼女が呼んだのは私です。まずは、私で話します」
川さんは何か言いかけたが、私の線に押されたのか、力なくを止めた。
私はワンボックスカーの黒りするスライドドアのにった。窓には濃いスモークフィルムが貼られており、の様子は全く窺えない。
私は度だけく息を吸い込み、たい属のドアハンドルに指をかけた。
カチャリとい音がして、スライドドアが横に滑る。
内のかりが点灯し、そこに広がる景が目にび込んできた。
真由がいた。
部座席の央に、溢れんばかりの純のチュールとシルクを広げて、彼女は静かに座っていた。丁寧に結いげられた髪にはパールの飾りが挿され、肌は完璧に磨きげられ、のリップが塗られている。
と変わらない、しがり気の柔らかな眉と、きな瞳。
彼女は膝のでいレースの袋をねたまま、ゆっくりと首をかして私を見た。
取り乱した様子も、涙の跡もなかった。
ぶりの再会。どんな劇な言葉が交わされるのか、私の胸は微かに騒いでいた。けれど、彼女が最初にいた唇から漏れたのは、ひどく平坦で、常な言だった。
「……老けたね」
張り詰めていた空気が、奇妙な音をてて抜けていくのをじた。私はさく息を吐きし、内のに片をかけて部座席に乗り込んだ。
「そっちこそ。髪、本見えてるよ」
スライドドアを内側から閉めると、密閉された内は、暴力なほどのの匂いと、婦のファンデーションのりで満たされていた。