"十一時八分の「家に着きました」" 第12話
あなたは何者なの
美穂はのついた靴のまま、ズカズカと私たちのテーブルへ詰め寄ってきた。
傘から滴る滴が、のすり減ったリノリウムのに黒い染みを作っていく。
「姉さん……どうして……」
理が涙を拭いもせず、怯えたようにを縮めた。
「どうしてって、こっちのセリフよ!」
美穂の声が、狭い定に響き渡った。テレビのの老が驚いてちがり、銭をカウンターに置いて逃げるようにをていく。
「退院したって聞いてアパートにったら、かりも点いていない。話にもない。会社のに聞いて、あなたがよく来るを回っていたのよ!」
美穂は肩をらせ、テーブルの端をバンと叩いた。
「肩の脱臼だってまだ完治していないのよ。だって打ったばかりじゃない。それなのにでこんなところをうろついて……理、荷物をまとめなさい。うちに来るのよ。治るまで、私が面倒を見るから」
それは、過剰で、息の詰まるような「族の責任」だった。
理を配しているのは本物だ。だがその奥には、「妹をにしておくと、また得体のれないに奪われる」という、烈な焦燥が張り付いていた。
理はゆっくりと首を横に振った。
「嫌です。帰りません」
「何言ってるの!? でまともにも着替えられないくせに!」
「でできます。病院代も自分で払いました。
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姉さんには……迷惑をかけません」
「その『迷惑』って言葉をやめなさい!」
美穂の声が鳴のように裏返った。
「私がいつあなたを迷惑だと言ったの!? 族でしょう!? 助けうのが当たりじゃない! なのに、どうして……どうしてあんな見ずらずのの番号を『姉』にして、毎晩メールなんて送っていたのよ! 私には言も相談してくれないくせに!」
美穂の線が、刃物のように私に向けられた。
その目は真っ赤に充血し、侮蔑と嫉妬と惨めさで狂気にかった。
「あなたよ。あなたが妹をたぶらかしたのね。このは『関係ない』『を引く』なんて涼しい顔をしておいて……裏で理と密会していたわけ? 何が目なの? お? それとも、孤独な女を囲い込んで優越にでも浸りたかったの!?」
「違います、田辺さん。私は――」
「言い訳しないで!」
美穂は私の言葉を鳴り散らして遮った。
「あなたは何なの? 理の何なのよ!? 族でもない、友でもない、ただの違い話の相でしょう!? 赤のが、私たちの庭のに割り込んでこないで! あなたには、理のの責任なんてつも取れないくせに!」
『あなたは何者なの』
その問いが、鋭利な杭となって私の胸を貫いた。
何も言い返せなかった。
私は姉ではない。友ですらない。、ただ通も返信をしなかっただけの、無責任な傍観者だ。
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美穂の言う通り、私には何の資格もなかった。このにいること自体が、グロテスクな越境だった。
「もうやめて!」
突然、理が叫んだ。
子を派に倒しながらちがった彼女の顔は、のように蒼だった。
「理……」
「とも、やめて……もう、ほっといてよ!」
理はテーブルのに千円札を万円札をぐちゃぐちゃに叩きつけると、自分のバッグをひったくるように抱え込み、へ向かってりした。
「理! 待ちちなさい!」
美穂が叫んで追いかけようとしたが、濡れたにを滑らせ、テーブルの角に腰をしこたま打ちつけてそのに崩れ落ちた。
「痛っ……」
「丈夫ですか!」
私がわずを差し伸べると、美穂はそのを激しく払いのけた。
「触らないで! 全部……全部あなたのせいよ……!」
美穂はたいにをつき、子供のように声をげて泣き崩れた。
け放たれた引き戸のでは、阿佐ヶの夜のに、容赦のないたいがり続いていた。
逃げった理の音は、激しい音にかき消され、もうどこにも聞こえなかった。