"十一時八分の「家に着きました」" 第8話
緒にべるだけの族
私は黙って、目ので項垂れる美穂を見ていた。
胸が痛んだ。だがそれ以に、途方もない疲労が背にのしかかってくる。
珍しい話ではなかった。本のあちこちの庭で、介護と親のをきっかけに、似たような言葉が吐きされ、取り返しのつかない亀裂が入っている。
「……絶縁したわけではないんでしょう?」
私が尋ねると、美穂は涙をハンカチで乱暴に拭いながら、さく首を横に振った。
「していません。お正には緒にご飯をべますし、お盆にも会います。たまに渋あたりで待ちわせて、イタリアンをべたりもします」
「なら、修復できているじゃないですか」
「できていません!」
美穂の声がずり、隣の席のサラリーマンが怪訝そうにこちらを振り返った。美穂はハッとして元を押さえ、を乗りして囁くように言った。
「形だけなんです。事はするし、当たり障りのない仕事の話や気の愚痴は言います。でも……そこまでなんです。『活で困っていることはない?』『体調は丈夫?』ってしでも踏み込もうとすると、理はすっと目を逸らして、『丈夫、何もないから気にしないで』って言うんです」
事は緒にできる。
のない世話で笑いうこともできる。
けれど、決して「助けて」とは言わない。
「、ずっとそうでした。
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私は何度も謝ろうとしました。『あのは疲れていたの』『あんなこと本気でっていなかった』って。でも、私がその話を切りそうとするたびに、理は急にちがってお洗いにったり、自然に話題を変えたりして、絶対に私に謝らせてくれないんです」
美穂の唇が悔しそうに歪んだ。
「謝罪を受け入れたら、また私に甘えなきゃいけなくなるから。私を許してしまったら、また迷惑をかけるリスクを背負うことになるから。だからあの子は、私に謝る隙すら与えずに、『のかからない妹』を完璧に演じ続けているんです」
その歪な関係性の輪郭が、痛いほど鮮に浮かびがってきた。
に迷惑をかけるくらいなら、最初からしないとして振るう。
それは、私が婚の際に選んだ防策と、驚くほどよく似ていた。
私も元夫に対してそうだった。「あなたに頼るくらいなら、自分で全部やる」。そうやってを閉ざし、相が付け入る隙を完全に遮断したのだ。
けれど、理のそれはもっと極端だった。
実の姉にすらみを見せられない。
だからこそ、彼女には「絶対に返事をしてこない、顔もらない番号」が必だったのだ。
「……田辺さん」
私はスマートフォンをテーブルから引き戻し、バッグへ収めた。
「事は分かりました。でも、それはあなたと理さんが解決すべき問題です。
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私は今限りで、この件からを引きます」
「真理子さん……」
「病院へってあげてください。脱臼もしていますし、も打っています。で活できる状態じゃありません。族なら、あの子の頑なさをこじけてでも、連れて帰るべきでしょう」
私は伝票を掴み、ちがった。
美穂は何も言えず、ただ縋るような目で私を見げていた。その線を振り切るようにして、私はレジへ向かい、自分のアイスコーヒー代だけを置いてをた。
午、オフィスに戻って仕事を再した。
キーボードを叩きながら、私は何度も呼吸を繰り返した。
これでいい。私の役目は終わった。本物の姉に事を話し、証拠を見せ、突き返したのだ。私は歩も踏みしていない。平穏な常は守られた。
そう自分に言い聞かせていた午過ぎだった。
デスクの引きしので、スマートフォンが微かに震えた。
総病院の自受付システムからのSMSだった。
『患者・田辺理様は、本午分をもちまして、退院の続きを完されました。』
画面を見つめたまま、私の指が止まった。
退院?
あの怪で?
美穂と私が喫茶で会っていた、まさにその帯に、彼女はで病院をてったというのか。
姉を呼ぶこともせず。誰の迎えも待たずに。
痛む肩を庇いながら、でタクシーを拾い、あのアパートへ帰っていったのだ。
あの、誰も待っていない部へ。