"十一時八分の「家に着きました」" 第7話
母の葬儀のあとの言
運ばれてきたアイスコーヒーの氷が、カランと音をてて溶けた。
美穂は私のスマートフォンから線をし、自分の胸元に線を落とした。
先ほどまでの刺々しい敵は、見るもなく削ぎ落とされていた。残ったのは、どこか崩れかけた陶器のような、痛々しい憔悴だけだった。
「……どうして」
美穂の唇から、かすれた呟きが漏れた。
「どうして、見ずらずのにそんなことを……。私に送ればよかったじゃない。どうして私には送ってこないで、こんな……」
「それは、あなたのの問題です」
私は突き放すように言った。同する気にはなれなかった。
「病院で理さんは言いました。『姉には連絡できない、迷惑をかけたくないから』と。本物の族がいるなら、そちらで引き取ってください。私は昨、元引受の類も断りました。もうこれ以、私を巻き込まないでいただきたいんです」
たい言いだったとう。だが、歩でも踏み込めば、この姉妹の歪んだの沼に引きずり込まれるという予があった。
しかし、美穂は席をたなかった。
両で顔を覆い、く息を吸い込んだ。
「……です」
美穂は指の隙から、ぽつりと落とすように語り始めた。
「のに、母が倒れたんです。脳梗塞でした。命は取り留めましたけど、半が麻痺して、寝たきりになって」
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当、美穂は結婚して世田にんでいたが、夫とのに子供はいなかった。
方の理は歳。品メーカーの商品発部に配属されたばかりで、毎晩のように終まで働いていたという。
「理は真面目な子でした。週末になると必ず実に来て、『姉さん、何か伝うことない?』『私がオムツ替えるよ』って言ってくれました。でも、慣れない介護で際が悪くて、母も理のでは恥ずかしがって嫌が悪くなるんです」
美穂は自分に言い聞かせるように、何度もさく頷いた。
「だから私、言ったんです。『いいのよ、理は仕事が番事な期なんだから』『こっちは私がやっておくから、余計な配しないで仕事に集しなさい』って」
それは、姉としての優しさのつもりだった。
母の世話をに引き受け、役所の続きをし、病院に通い、の世話をする。
ボロボロになりながらも、「自分が女だから」「理のキャリアを邪魔したくないから」と、美穂はすべてをで背負い込んだ。
「母はにくなりました。でした」
美穂の声が、かすかに震えを帯び始めた。
「葬儀が終わって、親戚もみんな帰って、実のリビングできりになったんです。線の匂いがち込めるで、理が申し訳なさそうに言いました。『姉さん、本当にありがとう。
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私、何もできなくてごめんね。何か、残った片付けで私ができることある?』って」
そこで美穂の言葉が途切れた。
彼女は自分の両肩を抱きしめるようにして、ぎゅっと目を閉じた。
「私……限界だったんです。の眠と、母を取った喪失と、何もまともに寝ていないで……理のその綺麗なスーツと、申し訳なさそうな顔を見たら、何かがプツンと切れてしまって」
美穂のから漏れたのは、絞りすような告だった。
「言っちゃったんです。『あんたは気楽でいいわよね。どうせ最初から最まで、全部私がやってきたんだから』って」
喫茶の空気が、瞬で凍りついたようだった。
美穂の頬を、筋の涙が伝い落ちた。
「理は……言い返しませんでした。りもしなかった。ただ、真っな顔をして、にをついて『すみませんでした』ってをげて……そのまま、自分のアパートに帰っていきました」
美穂は震えるで、乾いた唇を覆った。
「それからなんです。あの子が、私に切の相談をしなくなったのは。傘を本貸してくれとも、邪薬を買ってきてくれとも言わなくなった。何を頼んでも、何を尋ねても……『丈夫。でできるから』って、あの能面みたいな顔で笑うようになったんです」