みかん小説
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"十一時八分の「家に着きました」" 第5話

曜の空

アパートの部に帰り着いたのは、夕方の過ぎだった。

結局、仕事に戻る気にもなれず、私はそのまま直帰した。

靴を脱ぎ、スーツを脱ぎ捨て、シャワーを浴びて部着に着替える。

湯沸かしポットのスイッチを入れ、インスタントのスープを啜りながら、部の静けさにを澄ませた。

いつも通りの、誰にも邪魔されない、私だけのだ。

理という女の無責任な甘えを突っぱねて、私は正しい判断をした。あのまま病院に残り、元引受に名をくような真似をしていたら、今頃治療費の請求や退院の続きに追われていたはずだ。

自分を守るための境界線は、正しく能した。

そう納得しようとするのに、胸の奥につっかえた黒い塊が、向に溶けてくれない。

『だって、真鍋さん。あなた、度も「やめてくれ」って仰らなかったじゃないですか』

あの女の、ひび割れた声がの奥で反響する。

私には、拒絶する会がいくらでもあった。

回目の夜に。「違っていますよ」と言送れば済んだ。

回目の夜に。「これ以送るなら着信拒否にします」と突き放せばよかった。

それをしなかったのはなぜだ。

面倒だったから? 波をてたくなかったから?

違う。

私は、のどこかで楽しんでいたのだ。

自分には何の責任も発しない、何の返信も求められない、ただ「無事であること」

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だけをらせてくる都のいい気配を、毎晩貪るように受け取っていたのだ。

計の針が、を回った。

分。

分。

私はローテーブルのに置いたスマートフォンを、凝していた。

画面は暗い。何も起こらない。

分。

夜。

当たりだ。

相は病院のベッドので、腕を吊られ、に包帯を巻いて寝ているのだ。

何より、私は昼、あんなにも酷に彼女を突き放したのだ。「度と私の番号を使うな」と。送ってくるはずがない。

なのに、私はどうしても眠ることができなかった。

毛布をから被っても、瞼の裏に浮かぶのは、あの部の暗い窓際と、額に赤の傷を作った女の、気の横顔だった。

彼女は今、痛むを抱えてで井を見げているのだろうか。

喉が渇いたとき、誰かにを頼めているのだろうか。

「姉には連絡できない」と言ったときの、あの固く閉ざされた元は何だったのか。

私は、「らなかった」という盾のろに隠れていた。

だが、もうその盾は々に砕けてしまった。

相が歳の、田辺理というのであり、今まさに病院できりで痛みに耐えていることをってしまった以、届かないメッセージの空は、ただの静寂ではなく、耐えがたい「の証拠」として部を満たしていた。

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午を回った頃、私はようやく浅い眠りに落ちた。

のにまで、規則正しく鳴り響くナースコールの子音と、あの女の「本当に、来てくれたんですね」という掠れた声が追いかけてきた。

翌朝、曜。

目覚ましのアラームが鳴るの、午分。

枕元で、スマートフォンがく激しく震えた。

び起きるようにして画面を掴んだ。

SMSではない。着信だった。

表示されたのは、昨の病院の番号ではなく、見覚えのない携帯話の番号だった。局番ではない、090から始まる番号。

まさか、あの女が退院したのか? それとも病院の公衆話からかけてきたのか?

私は息をえ、掠れそうになる声を喉の奥で押し戻しながら、通話ボタンを押した。

「……はい、真鍋です」

返ってきたのは、理の々しい声ではなかった。

『もしもし』

もっとく、く、張り詰めた、鋭利な刃物のような女性の声だった。

受話器越しでも伝わってくるほど、激しいりと信が渦巻いていた。

『田辺理の携帯から、発信履歴を見てかけ直しています。……姉の、美穂です』

全の毛穴が、瞬で収縮した。

本物の、姉。

『あなた、体何者ですか?』

女は、私の返答を待たずに、氷のようにたい言葉を叩きつけてきた。

『どうして妹のスマートフォンの緊急連絡先に、あなたの番号が登録されているの? どうして、私の番号じゃないのよ。

……あなた、私の妹に何をしたの?』

受話器の向こうから、荒い息遣いと、堪えきれない嗚咽のような震えが伝わってきた。

朝のたいが差し込む畳の真んで、私は言葉を失ったまま、ち尽くしていた。

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