"十一時八分の「家に着きました」" 第4話
止めなかった側の責任
「どうしてって……」
田辺理は、まるで自分自に問いかけるようにさく呟いた。
そして、ゆっくりと顔をげた。その瞳には、申し訳なさそうなと同に、どこか奇妙にえ切った頑なさが宿っていた。
「だって、真鍋さん。あなた、度も『やめてくれ』って仰らなかったじゃないですか」
ので、何かがぷつりと音をてて切れた。
「……は?」
「、毎届いていたはずです。を過ぎて、になって。には夜に送ったこともありました。でも、あなたは度も『違っています』とも、『迷惑です』とも言わなかった」
彼女の声は、責めるでもなく、ただ淡々と事実を並べてるようだった。
「だから……受け取ってくれているんだと、っていました」
「冗談じゃないわ」
私はわず歩、ベッドに詰め寄っていた。
「返事をしなかったのは拒絶よ! 無していたの! 見ずらずのから気の悪いメールが毎届いて、気悪がっていたから返信しなかったのよ! それをどうして『受け取っていた』なんて都よく解釈できるの!?」
私の語気がくなったことに驚いたのか、隣のベッドから微かに擦れの音がした。
私は息を吸い込み、声をく落としたが、胸の奥で煮えたぎるりは収まらなかった。
勝だ。あまりにも勝すぎる。
私が沈黙を守っていたのは、関わりたくなかったからだ。
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返信という歩を踏みせば、相と接点ができてしまう。余計なトラブルに巻き込まれ、また誰かの都のいいを引き受けさせられるのが嫌だったから、息を殺してやり過ごしていただけだ。
私のその防線を、この女は「同」だと決めつけていたというのか。
「私の沈黙を、あなたの勝なの材料にしないで」
「……ごめんなさい」
理はく謝った。
だが、その表にからの反省のは見えなかった。ただ、叱責を受け流すことに慣れたの、平坦な諦めが張り付いているだけだった。
「でも、昨夜……にはねられて、のに倒れたとき、のが真っになって。救急隊のに『誰に連絡しますか』って聞かれて、真っ先に浮かんだのが、あの番号だったんです」
「どうしてよ。本物のお姉さんがいるんでしょう」
私の問いに、理の唇がぴたりと閉ざされた。
それまで淡々と事実を話していた彼女の顔から、すうっと血の気が引き、頑丈な鉄の扉がりるような気配がした。
「……姉には、連絡できません」
「なぜ」
「迷惑を、かけたくないからです」
「私には迷惑をかけていいとでもったの!?」
わず叫びそうになった私のに、ガラリとカーテンがいた。
入ってきたのは、バインダーをにした先ほどの護師だった。
「あの、真鍋様。すみません、しよろしいでしょうか」
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護師は部の張り詰めた空気を察したのか、困惑したように線を泳がせながら、類を差ししてきた。
「こちら、入院の続き類と、元引受の用になります。田辺さんの治療方針と、万がの際の同、それから保証の清算について、ご族のサインをいただきたいのですが……お姉様でよろしいですね?」
差しされたクリップボードには、黒いボールペンが添えられていた。
「保証氏名」の欄が、ぽっかりとい空のまま私を待っている。
私はペンを受け取らなかった。
歩、ろへがる。
「言ったはずです。私は族ではありません。赤のです。このが勝に私の番号を携帯に登録していただけです」
「えっ……でも、ご親族の方にご連絡がつかないと、病院としても規定困るんです。保証のお預かりも……」
「それは病院と、このの問題でしょう。私には何の法義務もありません」
私ははっきりと、区切るように言った。
護師が怯んだように目を見張る。たいだと軽蔑されたかもしれない。だが、ここで文字でも名をけば、私はこの女のの「引き受け」になってしまう。あの元夫のと同じように、なし崩しに責任の沼に引きずり込まれる。それだけは絶対に御免だった。
私はベッドのの理を見据えた。
「本物のお姉さんに連絡しなさい。
がで倒れて、見ずらずのに責任を押し付けるなんて、甘えるのもいい加減にして」
理は何も言い返さなかった。
ただ、掛け布団ので丸めた自分の拳を、じっと見つめていた。その背があまりにもさく、壊れかけの置物のように頼りなく見えたことが、私の苛ちをさらに煽った。
「度と、私の番号を使わないで」
私は護師にさく会釈し、背を向けた。
病をて、エレベーターを待ち、エントランスを抜けてのい差しのへるまで、度も振り返らなかった。
スマートフォンを握りしめたのひらが、汗でじっとりと濡れていた。