"十一時八分の「家に着きました」" 第2話
救急カルテの「姉」
午をし回った頃、オフィスの自席でパソコンを叩いていた私のデスクで、私用のスマートフォンが震えた。
画面には、局番から始まる見覚えのない固定話の番号が表示されていた。
普段なら営業話だとって無するところだが、指が勝に通話ボタンをスライドさせていた。
「もしもし、真鍋ですが」
『あ、もしもし。突然のお話で失礼いたします。総病院の救急来担当の者ですが』
く落ち着いた女性の声だった。背から、ストレッチャーが軋む音やモニターの子音が微かに漏れ聞こえてくる。
『真鍋真理子様のお話でお違いないでしょうか?』
「……はい、そうですが」
『昨夜、こちらに救急搬送されました、田辺理さんのご族の方でしょうか』
臓がさくねた。けれど、慣れない名に考が追いつかない。
「いえ、違います。田辺さんという方はじげません。番号をお違えではありませんか」
事務にそう告げて、通話を切ろうとした。迷惑話か、あるいは病院側の違いだろう。私の番号は誰にも教えていないわけではないし、同姓同名のがいるのかもしれない。
だが、護師は話の向こうで息を呑み、怪訝そうに言葉を継いだ。
『えっ……でも、ご本の所持品である携帯話の緊急連絡先に、こちらの番号が登録されているのですが』
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「登録? そんなはずはありません。私には田辺というりいはいませんし、親戚にも該当する者はいません」
『ですが……緊急連絡先は、この件しか入っていないんです。お名も「真鍋真理子」ではなく、ただ「姉」とだけ登録されていまして』
姉。
その文字を聞いた瞬、私の背筋にたいものがった。
昨夜届かなかったメッセージ。
分の空。
そして、この、毎晩届いていた「に着きました」という言葉。
まさか、とった。
そんな馬鹿なことがあるはずがない。私はただの宛先違いのだ。相が誰かもらなければ、顔も声もらない。
「あの……その田辺さんという方は、どうされたんですか」
気がつくと、私は話にを乗りしていた。
『昨夜の、区内の交差点で軽ワゴンに接触されまして。部打撲と肩の脱臼で運ばれました。命に別状はありませんが、処置が必で、今朝方まで処置で経過を観察していたんです。元引き受けと入院続きのためにご族へご連絡を、とったのですが……』
「ですから、私は族ではありません。完全に違いです」
『そうはおっしゃい operations……いえ、困りましたね』
護師の声に困惑が混じる。当たりだ。族として登録されている番号にかけたら、見ずらずの赤のがたのだから。
「どなたかにご親族はいらっしゃらないんですか。
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保険証とか、免許証とか」
『保険証の所はお暮らしのアパートになっています。会社へ連絡するにも、まずはご親族の同をいただかないと規則難しくて。何より……』
護師は度言葉を切り、し声を落とした。
『昨夜、救急ので識が朦朧とされていた、隊員が「連絡先は誰か分かるか」と尋ねたそうなんです。そうしたらご自で、はっきりとこの番号をで仰ったんですよ。「姉の番号です」と』
受話器を握る指先から、すうっと血の気が引いていくのが分かった。
古いメモが残っていたわけではない。
スマートフォンのアドレス帳を救急隊員が勝にスクロールして見つけたわけでもない。
昨夜、事故に遭ってに倒れ込み、血を流しながら、彼女は自分ので私の番号を言ったのだ。
あの、度も返信をしたことがない、桁の数字を。
「……真鍋様? もしもし?」
「あ、はい」
『申し訳ありませんが、度病院までお越しいただくことはできませんでしょうか。違いだとしても、ご本の識は戻っておりますので、直接ご確認いただかないと警察への届や今の続きがまない状態でして』
断る理由はいくらでもあった。
仕事がある。のトラブルだ。警察に任せればいい。私は何つ同していない。
けれど、受話器の向こうから聞こえる械のビープ音を聞いているうちに、喉の奥がひどく乾いていくのを覚えた。
「……午から、伺います」
気がついたときには、そう答えていた。
話を切り、私は司に「内に急用ができた」と嘘をついて半休の申請をした。
嘘をついたことに対する罪悪よりも、自分の平穏な常の境界線が、元から音をてて崩れていくようなのほうが、遥かにかった。