"三十年間「奥さん」と呼ばれた同僚" 第12話
父の背と汚れた
静寂が、再びたく部を満たしました。
叫び疲れた隆史は、崩れ落ちるように子に腰を沈め、両で顔を覆いました。
指のから、荒い呼吸が漏れていました。
部のかりが、夫の頂部に混じる髪と、丸まった背の頼りなさを容赦なく浮き彫りにしています。
そこにはもう、「頼れる黒柱」も「威厳ある部」もいませんでした。
ただ、自分のの嘘を突き崩された、無防備でみすぼらしい歳の老がいるだけでした。
「……親父が、そうだったんだ」
どれほどのが流れたでしょう。
夫のから、擦り切れた布のような、さな声が零れ落ちました。
「俺の親父は……町の員だった。毎、油の匂いと酒の匂いをプンプンさせて帰ってきた。会社で嫌なことがあると、すぐ母さんに当たった。茶碗をひっくり返して、鳴り散らして……母さんが台所でで泣いているのを、俺は押し入れのからずっと見ていた」
隆史は顔を覆ったまま、ぽつりぽつりと話し続けました。
「貧しくて、いつものがピリピリしていて、親父の嫌つで空気が凍りついた。……俺は子供に誓ったんだよ。絶対に、あんな父親にはならないって。会社でどれだけを啜っても、に帰ったら笑っていられる男になる。妻や子供には、いつも穏やかで、派で、絶対に揺るがない父親の背だけを見せるんだって」
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林さんがラウンジで語っていた言葉が、そのまま夫のから繰り返されました。
夫の頑なな「線引き」の根底にあったのは、幼期に植え付けられたい恐怖だったのです。
「庭を汚したくなかった。それだけは本当なんだ、真理子。おをしていなかったんじゃない。おと恵理が、綺麗なリビングで笑って夕飯をべている姿を見るのだけが、俺の唯の救いだったんだ」
隆史はゆっくりと顔をげました。
その瞳には、涙が溜まっていました。、私が度も見たことのない、夫の涙でした。
「おに滅されたくなかったんだよ……!」
夫の声が、けなく震えていました。
「会社でどれだけをげて、ペコペコして、けないいをしていても……に帰れば、俺は『頼れる夫』でいられた。おが『お父さん、お疲れ様』ってお茶をしてくれる瞬だけ、俺は自分が誇らしい男だとえたんだ! もしおに、俺が司に罵倒されている姿や、部に元を見られているけない姿をられたら……おまで俺を軽蔑するんじゃないかって、怖くてたまらなかったんだよ!」
告でした。
、完璧な防壁のろに隠し続けてきた、このの最も醜く、最もれな「本音」でした。
林さんには見せられた。
なぜなら、彼女は庭ののであり、最悪のでも「同僚」
としての関係が壊れるだけだったから。
けれど、私に見せることはできなかった。
庭という最の拠り所で軽蔑されたら、自分を保つがすべて崩れってしまうから。
私は、泣きじゃくる夫の姿を、ただ静かに見つめていました。
れだといました。
同に、このの自分の献が、夫のこのちっぽけな保のための台装置に過ぎなかったのだという事実に、い虚しさが胸を突きました。
「そう」
私はく、呟くように言いました。
「あなたは自分が怖かったから、私を騙し続けてきたのね」