"三十年間「奥さん」と呼ばれた同僚" 第6話
のの待ちわせ
林紀子さんからの返信は、メールを送った翌の午に届きました。
『ご連絡ありがとうございます。昨晩の歓送会では、変なご無礼と混乱を招いてしまい、よりお詫び申しげます。奥様さえよろしければ、直接お会いしてお話しさせていただければとじます』
簡潔で、丁寧で、ビジネスメールのお本のような文面でした。
指定された所は、お互いの活圏からちょうど点にある、ターミナル駅直結のホテルのティーラウンジでした。
曜の午。
は朝から、季節れのたいがり続いていました。
私は約束の分にラウンジに到着し、粒の流れるきなガラス窓にい、奥まった席に案内されました。
運ばれてきたポットの湯気を眺めながら、私は自分の膝ので何度も指を組み替えました。
どんな顔をして現れるのだろう。
のように伏し目がちに、罪悪を滲ませて現れるのか。
それとも、現で戦ってきたキャリア女性らしく、庭しからない主婦を見すようなたい態度を取るのか。
あらゆるシミュレーションがを巡り、胃のあたりがきりきりと痛みました。
午分。
「お待たせいたしました」
静かな、よく通る声がからってきました。
顔をげると、そこには濡れたトレンチコートを脱ぎ、腕に掛けた林紀子さんがっていました。
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歓送会の華やかなスーツとは違い、質なチャコールグレーのタートルネックセーターに、無駄のないシルエットのスラックス。
化粧はく、えられたショートヘアの元に、粒のパールのピアスがっていました。
彼女の顔には、怯えも、傲さもありませんでした。
ただ、自分に課せられた責任をきちんと引き受けに来たの持つ、静かで澄んだが宿っていました。
「はじめまして、隆史さんの妻の、真理子です」
私がちがって会釈をすると、林さんはく、綺麗なお辞儀を返しました。
「営業管理課の、林です。お元の悪い、わざわざおを取っていただき、本当にありがとうございます」
彼女は向かいの席に腰をろすと、員に際よくアメリカンコーヒーを注文しました。
ののラウンジには、クラシックのピアノ曲がく流れていました。
運ばれてきたのトレイからコーヒーを受け取り、喉を潤すまで、彼女の元には切の迷いがありませんでした。
、組織ので無数の交渉や修羅を潜り抜けてきた特の、無駄のないのこなしでした。
その姿を見ただけで、私は直しました。
このは、夫に目を使って甘えたり、裏で妻の座を奪おうと画策するような種類の女性では決してない。
そしてその事実が、かえって私の胸の奥に、言葉にできない圧を落としました。
敵が棒猫なら、叩きすのは簡単です。
けれど、目のにいるのは、あまりにも誠実で、あまりにも能な、夫の「半」だったのです。
「奥様」
林さんが、カップをソーサーに戻し、まっすぐに私の瞳を見つめてきました。
「歓送会でのこと、本当に申し訳ありませんでした。司会の軽率な紹介もさることながら、私が壇にがってしまったこと……取り返しのつかないご無礼をしてしまったと、く恥じ入っております」
言葉に嘘はありませんでした。
けれど、私はその謝罪をそのまま受け取る気にはなれませんでした。
「林さん」
私はテーブルのに両を揃え、逃げを塞ぐように彼女を見据えました。
「謝罪を聞きに来たんじゃありません。私は、の事実を教えていただきに来たんです」