"十九年間、夫に翻訳されていた" 第7話
週に度の夕餉
調まで、あと。
曜、私たちは世田の自宅をて、田区にある俊介の実へ向かっていた。
に回、義父母と囲む夕会。結婚して、冠婚葬祭でもない限り欠かしたことのない義務だった。
助席の窓のを流れる環状号線の景を、私は無言で見つめていた。部座席では美咲がイヤホンをしてスマートフォンを眺めている。運転席の俊介は、お気に入りのクラシックラジオをさな音量で流しながら、滑らかにハンドルを切っていた。
「母さんが、良い目鯛が入ったから煮付けにするって言ってたよ。奈緒の好きな付けにするように伝えてあるから」
俊介がバックミラー越しに私を見て、柔らかく微笑んだ。
私は何も答えず、膝のでハンドバッグの具をぎゅっと握りしめた。
実に着くと、歳になる義母の澄子が、品な柄の割烹着姿で迎えてくれた。元教員の義母は、背筋がすっと伸びていて、言葉遣いもなりも隙がない。
「いらっしゃい。美咲ちゃん、模試続きで変ね。おばあちゃん、格祈願のお守り用してあるのよ」
「あ、ありがとうございます」
居のきな座卓には、すでに豪勢な料理が並んでいた。央には照りよく煮付けられた目鯛。
「奈緒さん、し痩せたんじゃない? ちゃんとべてるの?」
広告
義母が私の顔を覗き込み、底配そうに眉をひそめた。
「いえ、元気にしております」
「そう? 俊介から聞いたわよ。最、またし眠りが浅いんですってね。昔から神経が細いところがあったけれど、この季節の変わり目は特に堪えるでしょう」
箸を持った私のが止まった。
俊介が、いつのにか義母に「私の調」を吹き込んでいる。
「お母さん、別に奈緒を責めてるんじゃないんだよ」
俊介がビールを義父のグラスに注ぎながら、自然な調で割り込んできた。
「美咲の受験もあるし、のことでいろいろと気を遣わせてしまっているからね。僕からも、無理をしなくていいとは言っているんだ」
「本当に、俊介は昔から気が利く子ねえ」
義母は目を細め、私に向かって優しく諭すように頷いた。
「奈緒さん、あなたが真面目なのはよく分かっているけれど、何でも自分で抱え込んじゃ駄目よ。のパートのだってそうだったでしょう? 働きたいって言いしたはいいけれど、結局プレッシャーで体調を崩しかけて。あのも俊介が根気く話を聞いて、あなたが休めるように段取りをつけてくれたじゃないの」
カチャリ、と皿ので私の箸がさな音をてた。
義母の言葉のに、悪は片もなかった。
ただ、れみと、慈と、そして揺るぎない確信があった。
広告
義母ののにある「奈緒」は、勝にキャパオーバーになって取り乱し、そのたびに慮い息子に救われてきた、愚かでかき妻だった。
「私……体調を崩して諦めたわけでは――」
私が言いかけた瞬、俊介が私の皿に目鯛のをそっと乗せた。
「奈緒、が崩れちゃうから温かいうちにべなよ。母さんの煮付け、君が好きだって言ってたから、醂をしめにしてくれたんだ」
私の言葉は、分い魚の切りのに押し潰された。
誰も私の発言を遮ってはいない。鳴ってもいない。ただ、当たりのように別の話題へ、より当たりの良い親切へとすり替えられる。
「美咲ちゃん、学の推薦枠はどうなったの?」
話題はあっけなく孫のへと移り、義母も義父もそちらへ顔を向けた。
私は皿のの目鯛を見つめた。
この、こので交わされてきた何千もの会話。そのすべてで、私はこうやって「俊介の翻訳」を受け入れてきたのだ。
義母が信じている私。
俊介が語り直した私。
そして、そのを荒てないために、最には笑いを浮かべて魚をに運んできた私。
テーブルので、膝に乗せた拳の爪が、のひらにくい込んでいた。