"十九年間、夫に翻訳されていた" 第4話
鍵のない本棚
午過ぎ、美咲が駅の予備の自習へ向かい、俊介は週末の課であるテニススクールへかけた。
のに、私の呼吸音だけが残された。
私はリビングのドアを閉め、廊を渡って俊介の斎のにった。
普段、私がこの部に入るのは掃除をかけるくらいだ。俊介のテリトリーであり、彼の考が理される神聖な所。ドアノブにをかけると、たい真鍮の触がのひらに伝わった。
鍵はかかっていなかった。
部のは、俊介の性格そのもののように然としていた。デスクのにはパソコンと卓カレンダー、無印良品のペンスタンド。壁面の作り付けの本棚には、経済学の専やビジネス、プロジェクトマネジメントの引が、背表のグラデーション順に並んでいる。
秘密の所を探すつもりだった。
引きしの奥か、クローゼットの装ケースの底か。妻を監し、言葉を捏造し続けた男の、どす黒い狂気の隠し所を。
だが、探すまでもなかった。
本棚の、ちょうどの目線のさ。番が届きやすい特等席に、それらは並んでいた。
「……嘘でしょう」
声が漏れた。
あの青いノートと同じ規格の、ビニールクロス張りの分いノート。
ピンク、黄、黄緑、紺、茶、グレー、そしてあの青。
背表には几帳面なテプラのラベルが貼られていた。
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『1993―1995』
『1996―1999』
『2000―2003』
『2004―2007』
『2008―2011』
『2012―2016』
『2017―現』
全部で冊。
分ではない。結婚するの、交際期の記録まで含まれている。
鍵のかかる引きしでもなく、隠し扉の奥でもない。誰でもに取れるリビングのすぐ隣の部で、それは堂々と、まるで誇らしい社史か業務誌のように列していた。
俊介にとって、これは隠すべきろ暗い秘密などでは毛ないのだ。自分がどれほど妻をく観察し、正しく導き、庭という組織を平穏に維持してきたかを示す、輝かしい実績のトロフィーなのだ。
ぞっとするような寒気が、元からいがってきた。
私は震えるを伸ばし、番端にある、褪せたピンクの表のノートを引き抜いた。
番古い記録。
私たちが代半ば、付きい始めてもない頃のものだ。
は黄く変し、角は湿気でし波打っていた。
パラパラとページをめくる。初めての旅、私の就職祝い、プロポーズの夜。
どのページも、私の「私」という主語で埋め尽くされている。
『俊介さんのでは、ついがってしまう。本当はもっと頼りたいのに、自した女に見られたくて素直になれない。彼が私の頑なさを優しく解きほぐしてくれるだけ、私は本当の自分になれる気がする』
吐き気がした。
私はそんなこと、度もったことがない。
当から私は、俊介の先回りするような説教癖がし息苦しかったのだ。
それを「素直になれない私のがり」として処理され、いつのにか私が謝る流れに持ち込まれていた。その違のすべてが、俊介の跡で、あたかも私の内省であるかのように偽造されている。
そして、ノートの程、私たちの結婚式から半の付のページで、私の目は完全に釘付けになった。
そこには、のページとはらかに異なる、く断定な文が記されていた。