"白紙の投函" 第18話
いたままの玄関
事件からヶが過ぎていた。
に入り、庭の梅のにさないが咲き始めていた。
あの以来、無記名のいが郵便受けに入ることは度となかった。
佐野美からも、何の連絡もない。式の止が決まった翌週、彼女から私宛てに、調査費用と同額の現留が送られてきたが、私はそれに切をつけず、そのまま送り返した。は添えなかった。お互いに、もう言葉は必なかった。
織は実をて、会社のくのさなワンルームマンションで暮らしを始めていた。
拓也さんとは、あの、何度か会って話しいをねているらしい。
式は完全にキャンセルされたが、が別れたのか、それとも関係を修復しようとしているのか、私と恵子は切尋ねていなかった。織が自分から話さない限り、こちらからその話題に触れることは禁句になっていた。
曜の午、リビングのソファで聞を読んでいると、スマートフォンがく震えた。
織からのLINEだった。
『のお昼、久しぶりに実にご飯べにってもいい?』
画面を見つめたまま、私の指が自然ときした。
『拓也君も緒か?』
打ち込んでから、指を止めた。
いけない。
私はその文字を消した。
『何に来る? 駅までで迎えにこうか』
打ち直して、また止まった。
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これも違う。あの子のを、私が先回りして管理しようとしている。
私は再びバックスペースキーを連打し、画面を空に戻した。
そして、呼吸をつしてから、い言葉だけを打ち込んだ。
『何がべたい?』
送信ボタンを押す。
数分、ぽんと返信が届いた。
『なんでもいいよ。』
その文字を見た瞬、私の古い習慣がまた首をもたげた。
「なんでもいい」なら、あの子の好物の鰻を私が予約しておこうか。いや、最疲れていると言っていたから、胃に優しい鍋物にするべきか。
指がキーボードを叩きかけた。
――おが決めるな。
ので、たいブレーキがかかった。
私は画面を見つめ、度目の打ち直しをした。
『帰ってきてから、自分で選びなさい。所のをいくつか見て回ろう』
今度は迷わずに送信した。
織からは、猫が両を振っているさなスタンプがつだけ返ってきた。
翌の曜、正午を分ほど過ぎた頃、ピンポンとインターホンが鳴った。
「私がけるわ」とちがろうとした恵子をで制し、私は自分で玄関へ向かった。
引き戸の鍵をけ、ドアを引く。
には、柔らかなの差しがり注いでいた。
扉の脇にっていたのは、織だった。
のベージュのトレンチコートを着て、髪をしく切っていた。
私は娘の背を見なかった。
の先を見渡すことも、誰かのを探すこともしなかった。
織は私を見て、し照れくさそうに笑った。
「こんにちは、お父さん」
「ああ」
私は玄関のたたきにち、ドアをきくけたまま、半歩だけ横へ退いた。
靴を脱ぎやすいように、がり框のスペースを空け、娘の歩幅を待った。
づきすぎず、かといって突き放すこともない、靴分の距。
かけて、ようやく私が辿り着いた、娘との正しいいだった。
「あがりなさい。がたい」
「うん、お邪魔します」
織が靴を脱ぎ、のへを踏み入れる。
け放たれた玄関の向こうから、のが静かに吹き抜けていった。