"白紙の投函" 第17話
受話器のみ
翌朝、私はスーツを着て、居の話のに座った。
恵子は隣で、親戚の連絡先が几帳面に記された所録をめくっていた。
「お父さん、何て説するの? やっぱり、織の体調が急激に悪化して、入院することになったって言った方が……」
「いや」
私は首を横に振った。
「病気のせいにはしない。嘘をつけば、織は親戚のでずっと『病気で式を潰した娘』として申し訳なさそうに振るわなければならなくなる」
「でも、本当のことを言ったら、あなたが親族から何て言われるか……」
「私が言われればいいんだ」
私は受話器を取り、まず田にむ私の実兄の番号をダイヤルした。
呼びし音が回鳴り、兄の野太い声が響いた。
「修司か? は朝番の幹線でくからな。ホテルは――」
「兄さん、申し訳ない。の結婚式は、取りやめになった」
受話器の向こうが、完全に凍りついた。
数秒の、声がんできた。
『取りやめだと!? どういうことだ! になって何を言っている! 相に何か問題でもあったのか!?』
「いや、拓也さんには何の問題もない。ただ、娘がどうしても納得できない部分があり、結婚をに戻したいと申した」
『納得できないって、何だそれは! 親の教育はどうなってるんだ! おが甘やかすからそんなが儘が通るんだろうが! 親戚同、どれだけ準備してきたとってるんだ!』
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の奥が痛くなるほどの罵倒だった。
かつての私なら、絶対に耐えられなかった屈辱だった。自分の完璧な設計にを塗られ、内にをげることなど、ぬよりも嫌なことだったはずだ。
だが、私は度も声を荒らげなかった。
「すべて私の責任だ。私が娘の気持ちを見落としていた。兄さんのりはもっともだ。旅費や装のキャンセル料は、すべて私が弁償する。本当に、申し訳なかった」
私は話で、々とをげた。
相に見えるはずもないのに、額が畳につきそうなほど腰を折った。
話を切った、すぐに次の番号を押した。
式。
拓也さんの両親。
主賓として招いていた元司。
代の友。
本かけるごとに、私は謝罪の言葉を繰り返し、娘のわがままではなく「私の庭の判断の誤り」としてをげ続けた。相が話を叩き切る音を、何回も聞いた。
午を回る頃には、私の喉は完全に潰れ、声はかすれてほとんどなくなっていた。
受話器を置いたとき、のひらは脂汗でじっとりと濡れていた。
「お父さん、お茶……」
恵子が差ししてくれた湯呑みを受け取ると、が刻みに震えていた。
社会な信用を失うというのは、これほどく、恐ろしいことだったのか。私は定を迎えるまで、このみをすべて「先回りしたアドバイス」
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によって回避し、その代わりに娘に背負わせていたのだ。
自分のプライドを守るために、娘に息を止めさせていたのだ。
階の階段から、静かに音がりてきた。
部着に着替えた織が、廊の隅にっていた。私が受話器に向かってをげ続けていた数を、あの子はずっと階で聞いていたのだろう。
織は赤く腫れた目で私を見つめ、何も言わずにくをげた。
私は湯呑みを置き、掠れた声で言った。
「……織」
娘が顔をげた。
「お腹は空いていないか。お母さんに、うどんでも作ってもらいなさい」
織は瞬、呆然としたように私を見つめ、それからさく、今度は繕わない笑顔で頷いた。
「うん。べる」
それだけだった。
あのいの予告通り、私はで最の恥をかいた。
だが、こののに漂っていた、あのたく張り詰めたのような空気は、どこにも残っていなかった。