"白紙の投函" 第16話
たった言の「分かった」
織は、私が次に発する言葉を待っていた。
彼女の肩は張り、首筋には青い筋が浮きていた。
それは、処刑台ので斧が振りろされるのを待つの姿勢だった。
あの子は待っているのだ。
私が「なぜだ?」「具体に拓也さんのどこにがあるんだ?」「にならず、今の活設計をにいて理しなさい」と、いつもの完璧で理なアドバイスを振りかざしてくる瞬を。
そして、自分がその問いに答えられず、再び「私が違っていました」と旗を揚げることになる未来を、恐怖とともに予測しているのだ。
居の掛け計の秒針が、カチ、カチと乾いた音を刻んでいた。
恵子が息を殺して私を見つめていた。
私ののでは、無数の声が叫んでいた。
親としての責任はどうなる。
理由も聞かずに結婚の破談を受け入れる親がどこにいる。
現実を見ろ。歳の女が、式の々に逃げして、そののをどうやってて直すというのだ。
言ってやれ。おの考えは甘いと。お父さんが緒に相の親のところへってをげ、をかけて話しえば、まだやり直せるはあると。
それがおの「」だろう。
それがおのの番の誇りだろう。
――織、理由を聞かせてくれ。
唇がわずかにいた。
その瞬、テーブルののいが目に入った。
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『今度こそ、あの子が「嫌だ」と言ったとき、あなたはその「嫌だ」だけを聞くことができるか。』
私のは、ズボンのポケットののスマートフォンを握りしめていた。
脈。権力。論理。経験。
私が娘のに君臨するために使ってきたすべての武器が、そこにあった。
私は、ポケットからを抜いた。
スマートフォンをテーブルのに置き、織から線を逸らさずに、ゆっくりと両を膝のに置いた。
胃の底が、凍りつくように痛かった。
、組織でき、リスクを排除することだけを正義としてきた私の価値が、内側から音をてて崩壊していくのをじていた。
息を吸った。
そして、吐きした。
、こので度もにされたことのない言葉を、私は喉の奥から絞りした。
「……分かった」
静寂が、部を満たした。
織が、弾かれたように顔をげた。
その瞳はきく見かれ、困惑と疑に揺れていた。
「……え?」
「式のことは、お父さんが全部断る」
私はできる限り、静かで、揺らぎのない声で言った。
「親戚にも、式にも、拓也さんのご両親にも、お父さんが連絡を入れる。キャンセル料も、お父さんが払う。おの貯を使う必はない」
「でも……理由も聞かないの?」
織の声がずった。
「どうして辞めるのか、お父さん、らないの? 私、こんな勝なことして……全部めちゃくちゃにしてるのに……!」
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娘の防壁が、内側から崩れ始めていた。
彼女はられる準備をしていたのだ。論理でねじ伏せられる準備をしていたのだ。それに対して、必に抵抗するための鎧を着込んで、ここに座っていたのだ。
だが、差しされたのは刃ではなく、ただの空だった。
「理由なんて、なくていい」
私は言った。
「おが嫌なんだろう。おが、今はち止まりたいんだろう」
織の唇が、激しく震えた。
「……うん」
「なら、それ以はいらない。お父さんの仕事は、おを審査することじゃない」
私はちがり、がり框の娘の脱ぎ捨てられた靴を揃え直した。
背から、嗚咽が聞こえてきた。
最初はさく、息を詰まらせるような音だった。
やがてそれは、分の堰を切ったような、激しい慟哭へと変わっていった。
織はテーブルに突っ伏し、子供のように声をげて泣きじゃくっていた。恵子がその横に座り、娘の細い背を、今度は「理解させよう」とするためではなく、ただそのみを受け止めるために、く抱きしめていた。
私はの背に触れることもせず、ただ静かに、け放たれたキッチンの窓からたい夜を吸い込んだ。
何も解決していない。
親戚への体面も、何百万円もの損失も、これからの娘のく末も、何つとして「理」には片付いていなかった。
だが、私の胸の奥にあった、あの鉛のような苦しさは、議と消えっていた。