"白紙の投函" 第14話
引き返した音
式まで、あと。
のたいが、朝から庭の敷を濡らしていた。
居の黒話は、まるで故障した目覚まし計のように、分おきにくけたたましいベルを鳴らし続けていた。恵子は受話器を取るたびに背を丸め、掠れた声で平謝りを繰り返している。方から京する親戚のホテルの配、着付けの予約、お祝いの報への礼。どれつとして、娘が姿を消しているとは言えないまま、妻は社会な嘘の沼にを取られていた。
午過ぎ、インターホンが乱暴に鳴った。
玄関の引き戸をけると、そこにっていたのは佐々拓也さんだった。
傘を差してきたはずなのに、スーツの肩はぐっしょりとを吸って黒ずんでいた。ネクタイは斜めに緩み、えられていたはずの髪が額に張り付いている。
「お義父さん……!」
拓也さんは靴を脱ぐも惜しむように、がり框にをついた。
「織から、連絡はありましたか」
「いや。まだだ」
私のい声を聞くと、拓也さんの顔から血の気が完全に引いた。
「どうすればいいんですか……僕の親父からもさっき話があって、もうの幹線を取ったって言ってるんです。親戚だって、みんな仕事を休んで来るんですよ。キャンセル料だって、今からじゃ全額かかります。
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何百万円も捨てることになるんですよ!」
彼はでまくして、私の腕を掴まんばかりにを乗りした。
「お義父さん、緒に探してください。お義父さんのりいの警察とか、興信所とか、使えるはあるんでしょう? 織の居所を突き止めて、僕と緒に説得してください! あいつ、僕の話にはないんです。でも、お義父さんの言うことなら……お父さんの言葉なら、あいつも絶対に聞きますから!」
私はの滴が落ちる拓也さんの額を、じっと見つめていた。
かつて喫茶で聞いた、彼の司の言葉が甦る。
――彼は、断れないなんです。
目のにいるこの男は、織をしているのではない。
自分が築きげてきた「誠実で、波をてず、誰の期待も裏切らない青」という板が、々に砕け散る恐怖に震えているのだ。そしてその破片を拾い集めるために、私という「よりい権力」にすがり、娘を元の枠組みへと力尽くで押し戻そうとしている。
かつての私なら、即座にいただろう。
をし、関係各所に話をかけ、娘の居所をで特定し、父親としての圧倒な正論で織を連れ戻したはずだ。
「拓也さん」
私は静かに言った。
「今は、もう帰りなさい」
拓也さんはぽかんとをけた。信じられない、という表だった。
「……え? 何を言ってるんですか、お義父さん。
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あとですよ? ここでを打たなきゃ、取り返しのつかないことになるんですよ!」
「取り返しのつかないこととは、何だね」
「世体ですよ! 親戚への筋通しです! 結婚式をドタキャンしたなんてられたら、織だってこの先、まともにきていけないじゃないですか!」
「それは、君の都だろう」
私の乾いた声が、玄関に落ちた。
「お義父さん……?」
「で引き受けるべき痛みを、私のところへ持ち込むな。娘が『嫌だ』と言っているんだ。そのみから逃げるために、私を利用しようとするな」
拓也さんの顔が、りと屈辱で赤く染まった。
彼は数秒、何かを鳴り返そうと唇を震わせていたが、やがて力なく肩を落とし、踵を返した。
乱暴に閉められた玄関のドアの向こうから、のをざかっていく音が聞こえた。
そしてそのの夕暮れ。
ががった午過ぎ、再び玄関の鍵が回るさな属音がした。
がり框の向こうにっていたのは、のねたスニーカーを履き、さな旅バッグを抱えた織だった。