"白紙の投函" 第13話
あと
織はその夜、アパートにも戻らなかった。
携帯話は源が切られており、LINEも既読にならない。勤務先には「私用により休暇を取得します」と事にメールが入っていたと、翌朝、取り乱した拓也さんからの話でらされた。
式まで、あと。
のリビングは、氷のような静寂に包まれていた。
話が鳴るたび、妻の恵子が受話器を取り、「ええ、体調をし崩しまして……丈夫です、式にはにいますから」と、乾いた声で嘘をねていた。親戚からの着信、式からの確認、祝の打ちわせ。社会な続きの歯だけが、当事者を置きりにして酷に回り続けていた。
私は階の斎で、黒いスマートフォンの画面を見つめていた。
員代の脈を使えば、織がどのホテルにチェックインしたか、クレジットカードの利用履歴から割りすことなど容易だった。警察に方者届をすこともできる。友の興信所に頼めば、半で見つけせるはずだった。
画面をタップし、かつての部の番号を表示させる。
指が通話ボタンので静止した。
見つけてどうする?
見つけして、連れ戻して、式にたせるのか?
「おの言っていることは論だ。式のキャンセル料がどれだけかかるか分かっているのか。
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親族への体面はどうするんだ。話はで聞いてやるから、今はの責任を果たしなさい」
そう言って、また「理な理由」で娘をねじ伏せるのか。
――あの子が怖かったのは、あなたがドアのにっていることだ。
あのの文字が、暗ので発するように脳裏に浮かびがった。
私はちがり、ドアノブにをかけた。
その、ノックもなしにドアがいた。
恵子だった。
化粧も落とし、髪を乱した妻が、ドアの隙にっていた。
「……かけるの?」
恵子の声には、刺々しさはなかった。ただ、い疲労と、研ぎ澄まされた諦めだけがあった。
「織を探そうとう。てはある」
私がそう言うと、恵子はゆっくりと首を横に振った。
「やめて」
「恵子、式まであとなんだぞ。親族に何と言って説するんだ。拓也さんのご両親だって、もうの配を――」
「恥をかけばいいじゃない」
恵子の目が、私の目をまっすぐに見据えた。
「世体を気にして、恥をかくのを怖がって、それで娘を追い詰めたのは私たちでしょう? 今ここであなたがをかして、無理やり織を引っ張りしたら……あの子、今度こそ本当にんでしまうわよ」
息が喉に詰まった。
「ぬ……?」
「ので、よ」
恵子はドアの枠に凭れかかり、乾いた声で言った。
「あの子は、あなたので息を止めてきてきたの。
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やっと息を吸うためにへたのよ。それをまた、あなたの正しいで捕まえて、息の吸えない部に戻すつもり?」
私は反論できなかった。
の支で、何もの部をに語ってきた論理も、経営の危を乗り越えてきた判断力も、この暗い廊では何の役にもたなかった。
恵子は静かにドアを引き、閉めた。
カチャリと、ラッチが噛みう音がした。
私は、暗に沈む斎に残された。
窓のからは、のたいがを揺らす音だけが聞こえていた。
あと。
私はで初めて、「問題を解決するために全力を尽くす」というき方を、完全に封じられていた。
けば、娘を殺す。
かなければ、のすべてが崩壊する。
そのたい刃を喉元に突きつけられたまま、私は机ののいを見つめ続けた。