"白紙の投函" 第11話
許のいらない拒否
「織、どうしたんだ。お義父さんのだぞ」
拓也さんが困惑した笑みを浮かべながら、取り繕うように声で言った。
私はわずをきかけた。
「織、拓也さんに失礼だろう。嫌なら嫌で、ちゃんと理由を――」
「理由」
織が、私の言葉を繰り返した。
その声は震えていなかった。く、たく、座敷の空気を凍りつかせるような響きを持っていた。
「そうやって、いつも理由を聞くよね。お父さんは」
私は言葉を詰まらせた。
「学の、泳教を辞めたいって言ったもそうだった。『どうしてだ? タイムも伸びているし、体力づくりにもなる。辞める理な理由を説しなさい』って」
織の線が、真っ直ぐに私を射抜いた。
「で美術の部活に入りたいって言ったも、学で暮らしをしたいって言ったも、の会社にきたいって言ったも……お父さんは度だって鳴らなかった。叩きもしなかった。『おの自由だ』って、いつも優しい顔で言っていた」
「それは……おに悔してほしくなかったからだ」
「違うよ」
織の目から、粒の涙が零れ落ちた。だが、表は崩れなかった。
「お父さんは、私が諦めるまで質問を止めなかっただけだよ」
座敷ののにある掛け軸が、かすかな空調ので揺れた。
「お父さんの言う『客観な事実』とか『現実なリスク』に、私が言い返せなくなるまで、毎晩毎晩、穏やかに説教を続けたの。
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お父さんを納得させられるだけの論理な理由を提できない限り、私の『嫌だ』は、ただの『未熟なわがまま』として処理された」
「私は、おの将来を――」
「お父さん!」
織が声を張りげた。、あの子が私ので声を荒らげたことなど、度もなかった。
「嫌なことに、理由なんてないの!」
涙が頬を伝い、畳のに染みを作っていく。
「ただ嫌なの。ただ怖いだけなの。ただ、自分で選んで失敗したかっただけなの! でもこのでは、お父さんが判子を押してくれない『嫌だ』は、しちゃいけなかった」
織は胸元を押さえ、激しく肩をさせた。
「お父さんを論破できる自信なんて、子供の私にあるわけないじゃない。だから私は、お父さんが納得する理由を探すのを諦めたの。お父さんの望む答えを先に差しして、『私が自分で決めたよ』って笑うしかなかったのよ」
、組織ので無数の部を指導し、論理と数字できてきた私の体が、芯からえ切っていくのをじた。
私が誇りにしてきた「対話」の正体。
「通しのいい庭」という板の裏で、私がっていたこと。
それは教育でも対話でもなかった。
娘が完全に屈し、私の望む結論を自らにするまで追い詰める、のない精神な尋問だったのだ。