"白紙の投函" 第8話
届いていた着信
アトリエのいドアが閉まり、背で鍵の回る属音がカチャリと響いた。
はの夕暮れ特の、のたい空気に包まれていた。
駅へ向かう商の喧騒がくで聞こえる、私は宅のでち尽くしていた。胃の奥が雑巾のように固く絞りげられ、呼吸が浅くなっていた。
嘘だ。
あんなものは、孤独で偏屈な女が、の庭の幸福を妬んで吐きした毒に過ぎない。
私は織をしてきた。娘の将来を案じ、失敗して傷つくことがないよう、のレールを丁寧にえてやっただけだ。そのどこが「尋問」だというのか。親が子にリスクを教えることの、どこが暴力だというのか。
スマートフォンの画面をタップし、織の番号を表示させた。
美の言う通りにはさせない。娘に直接確認すればいい。お父さんはあなたを苦しめていたのかと。美がこんなを送ってきたが、おは本当に私ので怯えていたのかと。
発信ボタンを押そうとした瞬、指先が凍りついたように止まった。
――今すぐ織に話して、このを全部読み聞かせてみたらどうですか?
美の嘲を含んだ声が、の奥で蘇る。
もし私が話をかけたら、織は何と答えるのか。
『そんなことないよ、お父さん。美がおかしなこと言ってごめんなさい』
そう答えるに決まっている。
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いつもの穏やかな、非の打ち所のない声で。
だが、その答えは本なのか? それとも、私をこれ以らせないための、かけてにつけた「模範解答」なのか?
私には、もうそれを見分ける術がない。
「くそっ……」
吐き捨てるように呟き、私は通話をキャンセルした。
その、画面のにLINEの通がポップアップした。
見慣れない番号からだった。いや、先ほどアトリエで見た、美の連絡先だ。
いメッセージが件だけ届いていた。
『言い忘れていました。』
画面をスクロールする。
『最初の、投函したの夜に、私は織に写真を送っています。』
指先から血の気が引いていくのが分かった。
『織は、あのから全部っていますよ。でもあの子、私に「やめて」とは度も言いませんでした。』
息が止まった。
っていた?
あの子が、最初から?
週、あの『この男と、結婚させてはならない』というが届いたあのから、織はこののをっていたというのか。
私がで抱え込み、誰にも言えずに拓也さんを調査し、の会社へを運んでいた、織はずっとそれをっていたのか。
なぜ言わなかった。
「お父さん、変なが届いてない?」と、なぜ私に聞かなかった。
なぜ、私に止めてくれと頼まなかった。
――私に「やめて」とは度も言いませんでした。
画面の向こうから、美の嘲笑が聞こえてくるようだった。
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娘は、止めなかったのだ。
見らぬ悪によって父親が追い詰められ、過のいを暴かれていくのを、織はただ黙って、暗がりから眺めていた。
震えるで、もう度織のトーク画面をいた。
、織から届いていたメッセージがあった。試会の、私が吉祥寺に向かっているに送られてきたものだ。
『お父さん、ごめんね。今夜は拓也さんとアパートで式の最終確認をすることになったから、実には寄れなくなっちゃった。お母さんにもよろしく伝えておいて。』
いつもの、気遣いに満ちた丁寧な文面。
だが、今の私には、その文字の並びがまるで、頑丈に塗り固められたコンクリートの壁のように見えた。
あの子は、今どこにいるのか。
本当に拓也さんと緒にいるのか。
それとも、え切った部の隅で、崩壊していく父親の姿を待っているのか。
私は暮れなずむ吉祥寺のにち尽くしたまま、のの黒い画面を見つめ続けた。
夕が、元から容赦なく私のをみ込んでいった。