"白紙の投函" 第7話
アトリエの対峙
曜の午、私は吉祥寺駅から徒歩分ほどの所にある、築の古い造アパートのにっていた。
調査会社に美の連絡先と仕事を調べさせるのに、半もかからなかった。階の角部のドアには、さな製のプレートに『SANO DESIGN』とだけ彫りで記されていた。
チャイムを鳴らすと、数秒の静寂の、内側からサンダルを引きずる音がづいてきた。
ドアがいた。
現れたのは、髪をろで雑に束ね、オーバーサイズの黒いスウェットを着た佐野美だった。歳。目元の鋭さは、としも変わっていなかった。
彼女は私を見るなり、驚いた様子も見せず、ただややかに眉をげた。
「……織のお父さんですね」
「突然押しかけてすまない。し、話を聞かせてもらえないだろうか」
美はドアをけたまま、数秒私を品定めするように見つめていたが、やがてく「どうぞ」と言って奥へ引っ込んだ。
畳ほどの内は、画材や資料用の写真集がに積みげられ、きな作業机のには液晶タブレットが青くっていた。活のい、インクとの匂いが充満した部だった。
美はパイプ子を脚引きし、私に勧めることもせず、自分だけ作業用の回転子に腰をろした。
「お茶もせませんけど。何の用ですか? 式ののことで私に何か?」
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単刀直入だった。
私はコートを脱がず、ったまま内ポケットからいを枚取りし、彼女の作業机の空いたスペースに置いた。
美は線を落とし、に印刷された文字を瞥した。
揺も、取り繕う素振りもなかった。
「これを送ってきたのは、君だな」
私は員代に培った、相に圧をかけるためのく沈んだ声を使った。
「跡を残さないようにコピー用を使い、ポストやに直接忍ばせた。族の私活を覗き見し、過の来事を歪めて脅迫まがいの真似をする。これがどれほど悪質な犯罪か、分かっているのかね」
美はふっとを鳴らし、机ののをで払うようにして脇へ寄せた。
「犯罪ですか。警察に突きしたいなら、今すぐ呼べばいいじゃないですか」
彼女は背もたれに体を預け、え切った線で私を真っ直ぐに見げた。
「認めますよ。私がきました」
あまりにもあっさりとした自供に、拍子抜けすると同に、激しいりが込みげてきた。
「なぜこんなことをした! 織の事な結婚式を壊すのが目か? 友の幸せに嫉妬して、くだらない悪をぶつけているだけじゃないのか!」
私の声が狭いアパートの壁に反響した。
だが、美の表は微だにしなかった。それどころか、憐れむようなを瞳に浮かべて、さく首を横に振った。
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「幸せ? あれが幸せに見えるんですか?」
「何だと?」
「織はね、ちっとも笑ってないですよ。あなたたち族ので見せるあの顔、学の頃から私、嫌いだったんです」
美はちがり、私との距を歩詰めた。
「お父さん、あなたは度だって織を殴ったことはないし、鳴りつけたこともないんでしょうね。いつも穏やかで、で、論理で。織が絵の学にきたいって言ったも、そうだったんでしょ? 『反対はしない。ただ、将来の活費と就職率のデータをよく考えてから決めなさい』って」
私の胸が、さく軋んだ。
「それは……親として現実を教えるのは当然の――」
「のもそうでしたよね。『決めるのはおだ』って言いながら、毎晩毎晩、の事故のニュースや、京をれるデメリットを懇切丁寧に聞かせた。織はね、あなたのその『理なアドバイス』という名の尋問に耐えられなくなって、旗をげたんです。『私が違っていました、お父さんの言う通り京の会社にします』って言えば、あなたが番満そうな顔をするから!」
「織自が納得して選んだんだ!」
「納得させたんでしょ、あなたが!」
美の声が鋭く空気を切り裂いた。
「あのでは、織が『嫌だ』って言うこと自体が許されないんです。『嫌だ』って言ったら、あなたが『なぜだ? 理由を聞かせてくれ』って、納得のいくプレゼンを求するから。
代や歳そこらの女の子が、老獪なの元管理職を納得させられるだけの反論を用できるわけがないでしょう!」
言葉がなかった。
反論しようといたが、そのまま凍りついたようにかない。
「織はね、もう諦めることに慣れきっちゃったんです。波をてないために、自分の本当の気持ちを喉の奥に押し込んで、あなたの望む答えを先に差しす形になったの。拓也さんとの結婚だって同じですよ。あの男も、自分の親や世の顔ばっかり気にして、『丸く収めよう』としか言わない。織はね、別の形のあなたのところに嫁ごうとしてるんですよ」
美は私の元に散らばったの束を瞥した。
「そんなに私の言っていることが悔しいなら、今すぐ織に話して、このを全部読み聞かせてみたらどうですか? 『お父さんはこんなに傷ついたぞ』って問い詰めてみればいい。あの子、きっと泣きながら謝ってくれますよ。『お父さんを困らせてごめんなさい、全部私のせいです』ってね」