"白紙の投函" 第6話
胃の底の氷
翌の曜、私たちは式となるホテルのメインダイニングにいた。
披宴です料理の最終試会だった。本来であれば両の親が揃うだが、拓也さんのご両親は方にんでいるため、今回は私たち夫婦と若いのでテーブルを囲んでいた。
「お義父さん、この菜のテリーヌ、すごく美しいですね。これなら親族の皆さんにもんでいただけるといます」
拓也さんが、スーツの袖をえながら私によく微笑んだ。
彼には何の非もない。先、の会社の司から聞いた「断れない性格」という言葉が脳裏をよぎるが、目のの彼はただただ誠実で、私をてようと必だった。
「そうだな。彩りもいいし、付けも品だ」
私が頷くと、隣に座る織が、目に見えてほっとしたように肩の力を抜いた。
その瞬を、私は見逃さなかった。
織はメニュー表を膝のに置き、私がフォークをかすタイミング、に運ぶ速度、ワイングラスを傾ける角度を、界の端で絶えず観察していた。
拓也さんが「こっちの肉料理のソース、しが濃いかな」と呟いたとき、織はすぐに声で言った。
「そう? お父さんはこれくらいしっかりした付けの方が好きだとうよ」
拓也さんは「そっか、じゃあこれで決まりだね」と笑った。
息が詰まりそうだった。
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織は拓也を見ているのではない。私を見ているのだ。自分がどううかではなく、私がどう評価するかを先回りして判断し、の空気をえている。
恵子は向かいの席で、静かにパンにバターを塗っていた。昨夜の告などなかったかのように、完璧な母親の微笑みを浮かべている。その姿が、今は酷く気に見えた。
「織」
私が声をかけると、娘の背筋が微かにねた。
「……何? お父さん」
「結婚したら、まいは拓也さんの事務所のくにするのかい? 通勤を考えたら、あまり駅かられない方がいいとうが」
「うん、駅から歩いて分のところで探してるの。坂もないし、スーパーもいからだよ」
淀みのない、完璧な回答。
だが、その瞳の奥には、私の反応を値踏みするような微細な警戒が潜んでいた。
私はスーツの内ポケットに入っているの文面をいしていた。
昨夜、斎で通のを何度も読み返した際、通目にかれていた奇妙な言い回しが、ずっとに引っかかっていたのだ。
『今度は、彼女の代わりに答えるな。まるで胃の底に氷を落とし込むような沈黙を、これ以あの子にいるな。』
胃の底に氷。
普通の脅迫文や悪戯で、そんなな表現を使うだろうか。
どこかで聞いたことがある。以、織がの件を諦めた直のことだ。
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あの子の部から、微かに話で話す声が漏れ聞こえていた。
『……お父さんに悪気はないの。でもね、話していると、胃の底に氷をそのまま押し込まれるみたいな気持ちになるのよ』
当、私はその言葉のをく考えず、「就職のプレッシャーで胃が痛むのだろう」としかわなかった。
だが、あの話の相は誰だったか。
織が学代、頻繁にに連れてきていた友。美術サークルで緒だった、し目つきの鋭い、笑いを切しない女。
――佐野美(さの・みさ)。
学を卒業した、どこかのデザイン会社に入り、今は個でイラストレーターをやっていると、以織から聞いた記憶があった。織の結婚式にも、友代表として席することになっているはずだ。
「お父さん? お肉、めちゃいますよ」
織の澄んだ声に、私はに返った。
「ああ、すまない。し考え事をしていてね」
私はナイフを肉に突きてた。
美。あの子なら、織の過の愚痴も、ののことも、すべてっているはずだ。