みかん小説
本棚

"白紙の投函" 第5話

静かな共犯者

夜を回っても、斎のかりを消すことができなかった。

机のには、これまでに届いた枚のが並んでいる。無質ないコピー用に、たく印字された黒い文字列。どれも折り目はついているが、指紋つ採取できそうにないほど平坦だった。

『彼女が怖かったのは、あなたがドアのにっていることだ。』

その最のを目にするたび、喉の奥に鉛を流し込まれたような苦しさが広がる。

私は枚のをねて掴み、階へとりた。

リビングでは、すでにかりが落とされていたが、台所の換気扇のさな照だけが灯っていた。妻の恵子が、のカーディガンを羽織り、湯の入ったマグカップを両で包み込むようにして座っていた。

「まだ起きていたのか」

声をかけると、恵子は驚いた様子もなく、ゆっくりと顔をげた。

「お父さんこそ。……何か、あったの?」

私は何も言わず、テーブルのに枚のを置いた。乾いたの擦れる音が、静まり返った夜のダイニングにやけにく響いた。

「読んでくれ。警察に相談すべきかどうか、おの見も聞きたい」

恵子は無言のまま、老鏡をかけ、番のを取りげた。

枚、また枚と、ゆっくり線を滑らせていく。

私は妻が青ざめ、取り乱し、「誰の仕業なの?」と恐怖に声を震わせる姿を像していた。

広告

そうすれば、私はのとして「丈夫だ、私が責任を持って対処する」と静に請けうつもりだった。

だが、恵子は叫びもしなければ、眉を吊りげることもなかった。

最の枚を読み終えた、彼女は静かにを揃え、テーブルの央に戻した。

そして、い溜め息をついた。

「これ……全部が嘘ってわけじゃないわよ」

を疑った。

臓がねがり、わずのめりになった。

「何を言っているんだ。これは悪質な嫌がらせだぞ。拓也さんとの結婚を壊そうとして、過の来事を歪めて吹き込んでいるんだ。おまでそんな鱈目を真に受けるのか」

「鱈目じゃないわ」

恵子の声は、驚くほどく、平坦だった。

「織が部のドアをけていた理由、本当にらなかったの?」

「あの子は暗いのが苦だと――」

「違うわよ」

恵子は私の言葉を遮った。以の結婚活で、彼女が私の言葉を途で遮ることなど、片で数えるほどしかなかった。

「学のとき、あの子が度だけドアを閉めて鍵をかけたことがあったでしょう。算数のテストの点が悪くて、部で泣いていたよ。あの、あなたはどうしたか覚えてる?」

私は記憶を繰り寄せようとした。だが、そんな些細な幕を覚えているはずもない。

「ドアをノックして、優しく声をかけたわよね。『織、何かお父さんに言えないことでもあるのかい?』って。

広告

鳴ったりはしなかった。ただ、ドアの向こうでずっと待っていた。分も、分も。あの子が泣き止んで鍵をけるまで、ずっと笑顔のまま、にち続けていたのよ」

恵子はめかけた湯に線を落とした。

「あの子、次のから度と鍵をかけなくなったわ。閉めて拒絶するより、最初からしけておいて、お父さんがいつでも覗けるようにしておく方が、ずっと楽だって気づいたのよ」

「私は……あの子を配していただけだ」

声が掠れた。自分でも信じられないほど、々しい弁だった。

「ええ、配していたのよね。悪気なんてつもなかった。だから余計に逃げがなかったのよ」

恵子は力なく笑った。その笑みには、え切った諦めのようなが混ざっていた。

「番ずるかったのは私よ。織があなたの顔を見て黙り込むたびに、私はいつもあの子の背を撫でて言っていたわ。『お父さんはあなたを配しているだけなのよ、理解してあげてね』って。そう言えば、このは波がたずに済んだから。私があなたからの圧力を、綺麗にラッピングして娘にませていたのよ」

換気扇のモーター音だけが、く唸りをげていた。

、私が信じて疑わなかった「穏やかで温かい庭」の輪郭が、元から音をてて崩れ落ちていく覚があった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: