"白紙の投函" 第4話
ドアの向こうの音
に戻ったのは、が完全に落ちた午半だった。
玄関の引き戸をけると、温かい汁の匂いが漂ってきた。
「お帰りなさい。遅かったのね」
台所からエプロン姿の恵子が顔を覗かせた。
「散歩が引いてな。し本に寄っていた」
私は平静な声を装いながら靴を脱ぎ、に線を落とした。
あった。
がり框のすぐ、玄関マットの隅に、いが落ちていた。
郵便受けの投函から滑り込ませたのだ。私が留守にし、恵子が台所で夕の支度をしている、そのわずかな隙を突いて。
私は妻が背を向けた瞬に、音をてずにそのを拾いげ、握り拳のに隠した。
階の斎へ駆けがり、内側から鍵を閉めた。
デスクのスタンドライトだけを点け、乱暴にを広げた。
そこには、今まで届いたどの文面よりもい文字が並んでいた。
『あいつを調べるな。』
『娘に聞け。』
そして、段落空けて、次の言葉が刻まれていた。
『あなたは、あの子が昔から暗を怖がっていたとい込んでいる。』
『あの子が怖かったのは、あなたがドアのにっていることだ。』
息が止まった。
部のの空気が、急激に凍りついたかのようにくなった。
暗。ドアの。
臓が肋骨の内側を、規則にく打ち始めた。
織が学の頃のことだ。あの子は夜、自分の部で過ごすとき、絶対にドアを閉め切らなかった。
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いつもセンチほど、隙をけていた。
ある夜、私が「暗いのが怖いのかい? 廊の気をつけておこうか」と尋ねると、あの子はさく頷いた。
だから私は信じ込んでいた。娘は怖がりで、暗が苦なのだと。
親戚が集まった席でも、私は自げに話したことがある。
「うちのは通しがいいんですよ。織は部のドアを閉めない。親に隠し事がない証拠です」
違うのか?
私は斎をて、暗い廊をんだ。
突き当たりにある、織がまで使っていた部のにった。
独してをたも、恵子が定期に掃除をしているため、部は当のまま残されている。
製のドアノブにをかける。
指先が微かに震えていた。
私はかつて、このドアのにどうやってっていたか。
織が机に向かって勉しているとき。友達と話をしているとき。
私は音をてずに廊を歩き、隙から漏れるかりのにった。
そして、優しく声をかけたのだ。
「織、勉は順調か? 何か困ったことがあれば、いつでも相談に乗るよ」
娘が慌てて振り返り、笑顔を作るまで、私はドアのにち続けた。
何分でも。何分でも。
あの子が「何でもないよ、お父さん」と答えるまで、私はそのをかなかった。
私は見守っていたつもりだった。
娘がを踏みさないよう、で抱え込まないよう、いつでもを差し伸べられる距で、温かく見守っていたはずだった。
――あの子が怖かったのは、あなたがドアのにっていることだ。
暗に沈む娘の旧居のドアを見つめながら、私はそのから歩もけなくなっていた。
の裏から、たい覚がいがってくる。
このの記憶のすべてが、私のらないに塗り替えられていくような、底れぬ恐怖がそこにあった。