"白紙の投函" 第1話
の
娘の結婚式まで、あと週だった。
リビングのテーブルには、式から届いた最終表と、親族の配席図が几帳面に並べられている。歳で定を迎えた私にとって、のきな役目をつ終えるための、完璧な準備がんでいた。
妻の恵子は台所で引き物の熨斗の確認をし、私は老鏡の位置を直しながら、父親としての謝辞の原稿に目を落としていた。どこにしても恥ずかしくない、平穏で入れのき届いた庭。それが私の自負だった。
夕刊を取りに玄関へたのは、午をし回った頃だ。
気はすでにえ込み始めていた。扉の横にあるステンレス製の郵便受けにを差し入れたとき、指先が乾いたの触に触れた。
聞のに挟まっていたわけではない。封筒にも入っていなかった。
ただのつ折りにされた、A4サイズのいコピー用だった。
表には何もかれていない。切もなければ、宛名もない。私はそのでを広げた。
真んに、朝体のフォントで、たっただけ印刷されていた。
『この男と、結婚させてはならない。』
の端を掴んだまま、私は数秒、けなくなった。
文字は黒く、無質で、インクのかすれつなかった。
いたずらだ。そうった。
娘の織は歳になる。派な交友関係を持つ子ではないが、の広告関連会社に勤めていれば、職で誰かの反を買うことくらいはあるかもしれない。
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あるいは、婚約者である佐々拓也さんの昔のりいか。
どちらにしても、底の浅い悪だ。
私はをつに引き裂き、さらに細かく千切って、ズボンのポケットに突っ込んだ。
のからは、恵子が交じりに皿を洗う音が聞こえていた。
こんな愉な屑を、わざわざ見せる必はない。週にれ台を控えた娘を、無に揺させることなど論だった。問題は、私ので処理すればいい。、の管理職としてリスクを管理してきた私の、それが染みついた習性だった。
だが、通目はに届いた。
曜の朝、燃ごみをし終えて戻ったとき、郵便受けの投函からいの端がわずかに覗いていた。
今度も同じ、同じ折り方だった。
くから、胸の奥にたいものがるのをじた。
広げたには、こうあった。
『あなたは度、彼女に諦めさせた。』
私は玄関のたたきにったまま、靴も脱がずにその文字列を見つめ続けた。
喉の奥が急激に乾いた。
諦めさせた?
何をだ。
記憶の引きしが、私のとは無関係に音をててき始める。
。織が学を卒業したののことだ。
あの子は就職活の際、にある農業法への就職を希望していた。現の研修にも参加し、内定も得ていたはずだった。だが卒業の直になって、急に「やっぱり京で就職を探す」
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と言いしたのだ。
当、私は娘に反対した覚えはない。
ただ、現実を理してやっただけだ。国の厳しさ、がなければ活もままならない環境、京で築いた友関係を断ち切るリスク、そして親の目が届かない所で暮らすことの細さ。論ではなく、社会としての先輩として、客観な事実を並べて聞かせた。
最に私は、いつも通りに言ったはずだ。
「決めるのは織だ。おのなんだから、お父さんはししないよ」
織はに、の内定を辞退した。
あれは、あの子が自分で納得してした判断だった。族の誰もがそうっていたし、織自も度として満を漏らしたことはない。
なのに、なぜだ。
なぜそのことを、このの主はっているのか。
「お父さん? 寒いわよ、くドア閉めて」
廊の奥から恵子の声がした。
私は慌ててを折り畳み、胸ポケットの奥へと押し込んだ。