みかん小説
本棚

"十年前消えた妹の耳たぶ" 第12話

あと

「話を……?」

奈津美の声が震えていた。

「何を話せばいいの? 母さんに、何て言えばいいのよ……」

「自分で考えなさい」

私は淡に言い放った。

「綺麗な理由なんて言わなくていい。『息が苦しかったから逃げた』でも、『帰りたくなかった』でもいい。自分の言葉で、自分のしでかしたことを母さんに直接伝えなさい。それが、あんたが自分で選んだの責任よ」

「もし……もし私が話しなかったら?」

「の夜を過ぎても話が鳴らなかったら、私は母さんにすべてを話す」

臓が鐘を打っていたが、声だけは決して揺らせなかった。

「あんたが甲府のスーパーのくの惣菜で働いていることも、佐藤という男と結婚して学の娘がいることも、全部母さんに話す。母さんはの朝番で、警察に頼んででも甲府のあんたのへ押し掛けるでしょうね」

「そんな……お姉ちゃん、脅すの?!」

「脅しじゃないわ。選択肢を返してるのよ」

私は言った。

「今まであんたは、何か問題が起きるたびに誰かのせいにして、最は全部放りして消えることで解決してきた。でも、今回は消えさせない。夫に話すかどうかも、母さんにどう謝るかも、全部あんたが自分で決めなさい」

私は奈津美の返事を待たずに、通話を切った。

通話履歴を消し、スマートフォンを座卓のに伏せて置いた。

広告

の先が、氷のようにえ切っていた。

全の毛穴から嫌な汗が噴きしていた。

私は妹を救ったのだろうか。それとも、崖っぷちまで追い詰めたのだろうか。

もし奈津美が、私の言葉に絶望して、本当に今夜子どもを連れて夜逃げしてしまったらどうする?

あるいは、精神に追い詰められて、取り返しのつかないことをしてしまったら?

恐怖が元からいがってきた。だが、私はちがらなかった。

これ以、私が奈津美のを肩代わりしてはいけないのだ。

翌朝、。

母の誕のだった。

台所にくと、母が腰をかがめて、きなボウルで茹でたジャガイモを潰していた。

「お母さん、朝から何を作ってるの?」

「ポテトサラダよ」

母は額の汗を拭い、嬉しそうに目を細めた。

「、ほら、ケーキと緒にべようとってね。奈津美がねぇ、昔から私の作ったポテトサラダが好きだったのよ。リンゴとキュウリをたくさん入れてね。あの子、マヨネーズがちょっとめじゃないと嫌がるのよね」

すり鉢のでジャガイモが潰れる、ペチャペチャという鈍い音が居に響いていた。

母の背はさく、丸く、いつ崩れてもおかしくない砂ののようだった。

「お母さん」

「ん? なあに、真紀」

「……ううん。伝うよ」

私は母の隣に並び、皮を剥いたリンゴをく刻み始めた。

まな板に包丁が当たる規則正しい音が、を刻む計の針のようにえた。

あと。

になれば、このの沈黙が終わる。

それが救いになるのか、あるいはこのさなをっ端微に吹きばす破滅になるのか、私にはまだ分からなかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: