"十年前消えた妹の耳たぶ" 第10話
「きてるとだけ伝えて」
夜を回った頃、居のテーブルに置いてあった私のスマートフォンが震えた。
画面には、非通の文字。
私は反射に通話ボタンを押し、に当てた。
「……もしもし」
受話器の向こうから、浅く乱れた呼吸の音が聞こえてきた。
「……お姉ちゃん?」
奈津美の声だった。昼のスーパーやで見せたような刺々しさは消え、ひどく掠れて震えていた。
「どうしたの。こんなに」
「隆志さんが……夫が、ずっと変なの」
奈津美の背で、計の秒針の音が微かに響いていた。夫や子どもたちが寝静まった、で洗面所かどこかに閉じこもって話をかけているのが分かった。
「あので会ってから、隆志さんが何度も聞いてくるの。『あの京の、本当は誰なんだ』『どうしてあんなに怯えていたんだ』って。私、適当に誤魔化そうとしたけど、嘘をつくのがだから……」
奈津美の声が、涙で湿り始めた。
「隆志さん、を利いてくれなくなった。私が何かきな隠し事をしているって、気づいてる。このままじゃ、あの、興信所でも使って私の過を調べるかもしれない」
自業自得だ、と喉までかかった。
だが、引きしので見たあのノートの文字が、私の舌を縛りつけた。
「……それで、私にどうしろって言うの」
「お姉ちゃん、お願い」
奈津美が懇願するように言った。
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「母さんに、をいて送る。私がきてること、元気に暮らしてることだけを伝えるから。居所も、今の名もかない。ただ、『無事だから探さないで、お母さんも元気でいてね』って、それだけくから」
「……何それ」
「それじゃ駄目なの? 母さんは私の否を配してるんでしょう? きてるって分かりさえすれば、しはするじゃない!」
受話器を握るに、わず力が入った。
「あんた、本当に母親というものが分かってないのね」
「え……?」
「『きてるけれど、度と会えません。居所も教えません』なんてを送りつけられて、母さんがするとう? そんなの、んだと諦めさせられるより何倍も残酷よ」
私の声が、夜の静かな居にく響いた。
「母さんは毎、おの部のカーテンをけてるのよ。毎週曜に、玄関のスニーカーを磨いてるのよ。そんなをもらったら、母さんは残りのを、『あの子はきているのに、なぜ私を拒絶するのか』って自分を責め続けることになるの」
「じゃあどうしろって言うのよ!」
奈津美が話で叫んだ。押し殺した、しかし痛切な鳴だった。
「全部打ちけて、あのに帰ってこいって言うの? 隆志さんに『私は族を捨てて逃げていた嘘つきの女です』って告して、婚されて、子どもたちから母親を奪えって言うの? お姉ちゃんは、私の庭が壊れれば満なの?!」