"十年前消えた妹の耳たぶ" 第8話
のミニバン
通りに、見慣れないの国産ミニバンがハザードランプを点滅させてまっていた。
運転席の窓がき、0代半ばとわれる男が顔をした。く刈り込んだ髪に、休のラフなスウェット姿。目元に笑い皺のある、温そうな貌の男だった。
「おーい、とも何やってんだ? でばったり結菜を見かけてさ、乗せてきたぞ」
男――奈津美の夫が、からりてきた。
彼がこちらへ歩いてくるのを見た瞬、奈津美の顔が再び凍りついた。スーパーので私を見たとき以の、底れない恐怖が彼女の瞳を支配していた。
夫には、何も言っていないのだ。
「あれ、美穂、りい?」
夫が私を見て、懐っこい笑みを浮かべた。
「あ、こんにちは。妻がいつもお世話になってます」
丁寧にお辞儀をするその男のには、使い古された結婚指輪がっていた。
奈津美は喉をひきつらせながら、夫と私のに割って入った。
「……う、うん。昔の……京にいた頃の、ちょっとしたりい。たまたま仕事で甲府に来てたらしくて、でばったり会ったの」
「へえ、京の! 奇遇ですね。美穂の昔のりいなんて、僕、初めて会いましたよ。結婚するときも、寄りはもう誰もいないって聞いてたから」
男の悪気のない言が、私の胸を鋭くえぐった。
『寄りはもう誰もいない』。
そう言ったのか、奈津美。
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私たちは、あんたので最初からんでいたことになっていたのか。
私の線に気づいた奈津美は、顔を蒼にし、懇願するように私を見つめた。
『言わないで』。
声にはさないその唇のきが、はっきりと読めた。
今、こので言ってやればどうなるだろう。
「初めまして。私は美穂――いえ、奈津美の実の姉の真紀です。この女は、私たち族に何も言わずに失踪し、父を絶望のでなせ、母を狂わせました。寄りがないなんて、真っ赤な嘘ですよ」
そう叫べば、この男の笑顔は瞬で消えるだろう。この平穏でかな庭は、々に砕け散るだろう。
それは、私がこのわってきた獄に比べれば、あまりにも当然の報いのようにえた。
私のが、わずかにいた。
奈津美の呼吸が止まるのが見えた。彼女の指先が、無識にのたぶへと伸びかけた。
「……お話しできてよかったです」
私の喉からたのは、自分でも驚くほど淡で、無質な声だった。
「昔の仕事仲に、よく似ていらしたので。違いだったようです。失礼します」
私は夫に向かって浅く会釈をし、奈津美の顔を度と見ることなく、踵を返した。
「あ、そうですか……? 違いでしたか。はは、失礼しました!」
背広の男の呑気な声と、のドアが閉まるい音が背で響いた。
ミニバンがエンジン音をててりっていく気配を、私はの角に隠れてじっと見送った。
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が氷のようにたかった。復讐の会を自ら放したことへの悔しさと、あの女の怯えた瞳をこれ以見られなかったことへのけなさが、胸のでドロドロに混ざりっていた。
夕が迫る甲府駅のホームで、りのあずさを待っているとき、着のポケットのでスマートフォンが震えた。
メッセージの着信だった。
登録のない話番号。
だが、誰からのものかはすぐに分かった。
【もう度と私にづかないで。族を巻き込まないで。
もし母さんや隆志さんに過のことを話したら、私は今夜にでも子どもを連れてこのをる。
今度こそ、度と誰にも見つからない所へく。
私を追い詰めたら、あのと同じことをするだけよ】
液晶画面の青いが、暗くなったプラットホームで私の顔を照らしていた。
画面を見つめたまま、私は指先を震わせた。
母の歳の誕まで、あと。
妹は、反省などしていなかった。
ただ、自分のに入れたしい平穏を守るために、再び「消える」という刃を、私に向けて突きつけていた。