"十年前消えた妹の耳たぶ" 第7話
袖を握る癖
「お母さん! やっぱりここにいた」
現れたのは、先週スーパーで見かけたあの女の子だった。
紺のセーラーのに、しきめのグレーのカーディガンを羽織っている。には学のプリントが入ったクリアファイルを抱えていた。
「もう、勝で話し込んでるから探したよ。今、塾の面談のだって忘れて――」
女の子は、崩れ落ちるように壁にをついている奈津美と、そのに仁王ちしている私を見て、ぴたりとを止めた。
「……え?」
警戒するような、探るような線が私に向けられる。
奈津美は驚くべき速さで涙を指先で拭い、背筋を伸ばした。その顔は、先ほどまでの「追い詰められた妹」から、必に子どもを守ろうとする「母親」の顔へと無理やり作り変えられていた。
「……結菜。どうしてここに来たの。で待っててって言ったでしょう」
結菜。
そう呼ばれた女の子は、し唇を尖らせた。
「だって、お母さんスマホ忘れてるんだもん。先からに話かかってきちゃってさ」
結菜はそう言いながら、寒そうにカーディガンの袖を引っ張り、両をすっぽりと袖のに隠した。
そして、その萌え袖の先端を、ぎゅっと握りしめた。
私の胸の奥で、何かが激しく軋んだ。
奈津美だ。
学の頃の奈津美が、になるといつもやっていた仕だった。
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「袋するのめんどくさいんだもん」と言って、制のカーディガンの袖を伸ばしてを隠し、母に「だらしないからやめなさい」と叱られていた。
目のの女の、し癖のある髪、志のそうな眉の形、そしてそのの癖。
私の血が流れている。
私の姪なのだ。
、写真のでしかしなかった妹のが、目のでのとして形をとって呼吸していた。
「あ……あの」
結菜が、私をまじまじと見つめた。
「おばさん、先週もスーパーにいらっしゃいましたよね? お母さんのおりいですか?」
無邪気で、何の疑いもない質問だった。
私は反射にをきかけた。
「結菜ちゃん、私ね、あなたのお母さんの――」
「やめて!」
に、切り裂くような鳴が響き渡った。
奈津美が割って入り、結菜を自分の背にかばうようにしてちはだかった。その肩は激しくりに震え、私を睨みつける瞳には、狂気じみた敵が宿っていた。
「私の娘に、気く話しかけないで」
く、押し殺した声だった。
「この子は何も関係ない。この子には、あののことも、京のことも、何つ関係ないの」
「関係ない? 私の姪よ」
「違う!」
奈津美は吐き捨てるように言った。
「この子は佐藤結菜。私の、私たちの娘よ。川のじゃない!」
その言葉が、私の胸に刃物のように突き刺さった。
川を捨てるということは、私を捨てるということだ。
母を捨てるということだ。彼女は自分の過を汚物のように切りし、このしい名の殻のに閉じこもっている。
「……お母さん?」
結菜が、母親の尋常ならざる取り乱し方に怯え、の裾を引いた。
「誰なの、この……怖いよ」
「丈夫だから。結菜、あっちにってなさい」
奈津美が娘のを引いてをようとした、そのだった。
パパッ、といクラクションの音が、表の通りから響いた。