"十年前消えた妹の耳たぶ" 第5話
勝の濡れたアスファルト
京に戻ってからの、私はほとんど眠れなかった。
夜にふと目が覚めると、壁の向こうの母の寝息を確かめ、それから階へがって奈津美の部のドアノブにをかける。回るはずのない鍵の触を確かめては、胃の奥が雑巾を絞るように痛んだ。
母の歳の誕まで、あと。
曜の朝、私は度目の休を申請した。「実の回りの事にち会う」という嘘は、回の「取引先への直」よりも遥かに滑らかにからた。嘘をつくことへの抵抗が、自分ので麻痺していくのが分かった。
回の訪問で、私は奈津美の着ていたの胸元に、さな緑の刺繍が入ったエプロンの紐を見落としていなかった。
あれはスーパーの制ではない。スーパーの向かいの通りにある、持ち帰り専の惣菜のロゴだった。
午、特急をりた私は、甲府の乾いたのをに歩いた。
宅の角にあるその惣菜は、昼の準備で忙しそうだった。ガラス越しに厨を覗くと、角巾を被り、きなフライヤーので黙々と揚げ物を並べる奈津美の横顔が見えた。
本当に、普通に働いている。
千円のパートの募集広告が、の引き戸に貼られていた。彼女はここで、佐藤美穂という名で履歴をし、面接を受け、主婦としてを切り売りしながら暮らしているのだ。
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私はに入らなかった。昼の混雑が引けるまで、通りを挟んだコインパーキングの角で待った。
午過ぎ。
の勝がき、エプロンをした奈津美が裏にてきた。
には潰した段ボールの束を抱えている。ので濡れたアスファルトに、彼女の履く物のスリッポンがペタペタとい音をてた。
段ボールをごみ集積所の鉄檻に放り込み、彼女が息ついて腰を伸ばした。
私は、のから歩みた。
「母さんには、まだ言ってない」
奈津美の体が、氷のように直した。
振り向いた彼女の顔は、先週スーパーので見せた「の仮面」すら作れていなかった。血の気が完全に引いた唇が、微かに震えている。
私は彼女に逃げる隙を与えないよう、歩、いを詰めた。
「母さんには何も話してない。でも、のふりはもうやめて。奈津美」
を吹き抜けるが、ゴミ集積のゴミの匂いを運んできた。
奈津美は周囲を素く見回した。通りはない。民のいブロック塀と、アパートのに挟まれた細いには、私たちしかいなかった。
観したように、彼女の肩から力が抜けた。
「……何が望みなの?」
それが、ぶりに妹が私に向けた、最初のまともな言葉だった。