みかん小説
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"十年前消えた妹の耳たぶ" 第1話

秒の方ニュース

曜の夜、世田の古い造宅の玄関をけると、使い古された醤油と汁の匂いがをついた。

「お帰り、真紀。遅かったのね」

台所の奥から、母の千代子のくかすれた声がした。歳になる母の背は、ここ数で目に見えて丸くなっている。

「ちょっと残業になっちゃって。お母さん、先にべててよかったのに」

「いいのよ。でべても美しくないから」

私は鞄を廊の棚に置き、居に入った。畳の真んにある座卓には、蓋をした鍋と鉢がつ、几帳面に並べられている。

壁際のテレビからは、ローカル番組のニュースが流れていた。関甲信越の夕方の報番組だ。アナウンサーが当たり障りのない声で、季節れのについて話している。

私はスーツの着を脱ぎ、座卓の横に腰をろした。

、父が胃がんでくなって以来、このには私と母のしかいない。私は歳になり、元の品卸の会社で受発注の管理をしている。結婚はしなかった。代のほとんどを、警察からの話を待ち、母の通院に付き添い、父の病をすることで使い果たしたからだ。

「今は根がかったのよ」

母が鍋の蓋をけ、湯気のから鉢に煮物を取り分けてくれる。

「ありがとう」

箸を割ろうとした、まさにそのだった。

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テレビの画面が切り替わった。甲府内の学でわれた、通学の交通全点検についての特集だった。アナウンサーのナレーションになって、のにつ保護者へのインタビューが映しされる。

そこに、そのがっていた。

ベージュのウールコートを着て、黒い髪をろで緩く束ねた代半ばの女のだった。

カメラをし恥ずかしそうに避けるように線を斜めに落とし、マイクを向けられて元をさく引き結んでいる。

『……そうですね。のは特に、ここの坂が暗くなるので、親としては配で……』

言葉遣いは丁寧で、しだけだった。

私のから、割り箸が滑り落ちた。

「……え?」

喉の奥から、乾いた音が漏れた。

箸が畳に落ちた音に母は気づかず、台所で布巾を絞っている。

画面の女のが、最にさくをげてフレームアウトした。その、わずか秒ほど。

画面のに、い朝体でテロップがていた。

【梨県甲府 佐藤美穂さん(43)】

違う。

美穂じゃない。

臓が、肋骨の内側を力任せに殴りつけるようにねた。界の端がくかすみ、呼吸の仕方を瞬忘れた。

だ。

の、歳だった妹の奈津美は、曜の朝に「ってきます」と言ってをたきり、そのまま戻ってこなかった。

財布と携帯話だけを持ち、通帳も、パスポートも、クローゼットのもすべて置いたままだった。

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警察は事件性の証拠がないとして、最終に成による「自発失踪」として処理した。

それからの、私たちは奈津美の抜け殻のような部を守り続けてきた。

画面に映った女の、の眉尻がほんのしだけがる笑い方。

話すときに顎を引く角度。

あの筋の横にある、針の先で突いたようなさな黒子。

「真紀? どうしたの、べないの?」

母が振り返り、議そうに私を見た。

私は咄嗟にテレビのリモコンを掴み、録画ボタンを押した。追っかけ再の能があるハードディスクだった。

「……ううん。なんでもない。ちょっと、仕事のメールをいしただけ」

自分の声が信じられないほど震えていた。私は母に背を向け、震える指先で巻き戻しボタンを押した。

静止画になった画面のなかで、佐藤美穂と名乗る女が、と寸分違わぬ輪郭でこちらを見つめていた。

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