"新婦母の席札" 第14話
母さん、座って
披宴は半に入り、会は温かな気に包まれていた。
郎婦の幼い頃からのいちを紹介するスライドが映され、スクリーンには優がだらけになって笑う学の運会の写真が映しされていた。
私の隣で、信夫がハンカチを目元に当てて何度もをすすっている。
、頼りなく線を泳がせてばかりいた夫は、いま、堂々と父親の顔をして娘の成を見つめていた。
やがて会の照が段落とされ、司会者の澄んだ声がマイクを通して響き渡った。
『皆様、宴もたけなわではございますが、ここで郎婦より、これまでいをもって育ててくださったご両親様へ、謝のいを伝えるおとなります。郎婦のご両親様、どうぞメインステージのへおみください』
会から温かい拍が湧き起こる。
ピンスポットライトが、私と信夫の元をく照らしした。
信夫がちがり、私に腕を差しした。私がその腕にを添え、ゆっくりとちがった、その瞬だった。
ガタ、と会の静けさを引き裂くような音が、方の親族席から響いた。
振り返ると、美津子がちがっていた。
帯の結び目を両でぐっと引きげ、顎をツンと突きしている。
隣に座る子が驚いたように見げる、美津子は周囲の親戚に向かって、よく通る声で言い放った。
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「私もきます。佐藤の老として、向こうのご両親に言ご挨拶しておかないと、の格好がつきませんからね」
会のスタッフが瞬、戸惑ったようにを止めた。
美津子は留袖の裾をさばきながら、堂々とした取りで、央の赤い絨毯が敷かれた通へと歩みてきた。
その瞳は、まっすぐに私を捉えていた。
(さあ、どうするの)
義母の線が、そう語りかけていた。
、何百回と繰り返されてきた無言の圧力。
ここで私が微笑み、駆け寄り、『お義母様もどうぞご緒に』とを差し伸べれば、すべては「仲睦まじい世代の美談」として収まる。親戚のメンツもち、義母のプライドも守られる。
私の臓が、鐘のように打ち鳴らされた。
体が覚えている。
反射に元を緩め、歩に踏みそうとする筋肉の疼き。
誰にも恥をかかせず、空気を壊さず、自分が歩引くことで丸く収める――あの、麻薬のような処世術の引力が、私のを引き止めようとしていた。
私は唇を噛みしめた。
ステージのを見る。そこには、束を胸に抱いた優がっていた。
娘は息を呑み、祈るような目で私を見つめていた。
(お母さん)
声にはならない娘の叫びが、私のの奥に届いた気がした。
私は、元に張り付きかけた笑みを消した。
息を吸い込み、唇を固く結んだ。
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歩もにず、微笑みもせず、ただ静かに、そのに留まり続けた。
義母が私たちの数歩まで迫った、そのだった。
私の腕から、信夫の温もりがれた。
信夫が、美津子のを塞ぐように、通の真んへ踏みしたのだ。
信夫の表には、りも、苛ちもなかった。
ただ、の朝ののように、く、静かな決だけが湛えられていた。
信夫は、自分の母親の目を真っ向から見据えた。
会の線が集まる、夫のから、く、しかし驚くほど瞭な声が発せられた。
「母さん」
美津子がを止めた。息子の迫力に、わずかに気圧されたように眉を寄せる。
「母さん、座って」
静まり返った宴会に、その言葉が落ちた。
鳴ったわけではない。机を叩いたわけでもない。
ただ、越えてはならない境界線を引く、徹なまでの宣告だった。
美津子の顔から、さっと血の気が引いた。
唇が刻みに震え、線が信夫を越えて、そのろにつ私へと向けられた。
義母の目は助けを求めていた。
『綾子さん、あんたから何か言いなさい』
『息子を止めなさい』
『いつものように、冗談にして笑いばしなさい』
私は、美津子の線を真っ直ぐに受け止めた。
そして、何も言わなかった。
「信夫さん、そんな言い方……」と取りなすことも、「お義母様、元にお気をつけて」とを貸すこともしなかった。
ただ、静かに目を伏せ、そして再び顔をげると、信夫の隣へと歩み寄った。
私は信夫の腕に、自分のをしっかりと絡めた。
そして、義母に背を向けた。
「こう、信夫さん」
私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
振り返らずにステージへと歩みす私たちの背で、苦しい沈黙が数秒続いた。
やがて、擦れの音と共に、美津子が力なく退り、自分の席へと引き返していく気配が伝わってきた。
誰、義母に声をかける者はいなかった。
続いたがの構造が、々に砕け散った瞬だった。