"新婦母の席札" 第13話
末席の黒留袖
ホテルの控に漂うのりが、私を現実へと引き戻していた。
姿見のにち、着付け師のによって帯が締めげられるたび、く息を吐きす。
にまとっているのは、つ紋の入った漆黒の留袖だった。裾に糸で織りされた鶴が、控えめながらも確かなを放っている。
、自分の結婚式の朝をいす。
義母がどこからかく借りてきた留袖は、私の柄な体にわず、裾を引きずりそうだった。
『綾子さんにはこれで分よ。どうせ主役はうちの信夫なんだから』
そう言われて、さく首をすくめて「ありがとうございます」と微笑んだ、あの歳の私。
「……お母さん、すごく似ってる」
背からかけられた声に振り返ると、純のウェディングドレスにを包んだ優がっていた。
レースのベール越しに見える娘の瞳は澄み切っていて、かつてで泣いていた面はどこにもない。
「優。綺麗よ、本当に」
「お父さんはもう、さっきから泣きそうになって廊をうろうろしてるよ」
優がさく笑う。その笑顔を見つめながら、私はそっと娘のを握った。温かく、柔らかいだった。
チャペルでの挙式は、厳かに、そして滞りなくんだ。
信夫がぎこちない取りで優とバージンロードを歩き、郎のへと娘のを託す。
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最列の親族席の端に座る義母の姿が界の隅に入ったが、義母は終始、背筋を直させたまま正面の字架を睨みつけるように見つめていた。取り乱すことも、声をげることもなかった。
そして、披宴が始まった。
い井からがる巨なシャンデリアが、温かなを会全体に投げかけている。
郎婦のメインテーブルのすぐ正面。もっとも格式のい婦父母の円卓に、私と信夫は並んで座っていた。
「婦父 佐藤信夫」
「婦母 佐藤綾子」
箔押しの席札が、のテーブルクロスので静かに誇りを主張している。
会の最も奥、入りにい親族卓に目をやると、のな留袖を着た美津子が座っていた。
その隣には、信夫の叔母である子をはじめ、親戚筋が固まっている。彼らは乾杯の最も、折こちらへ探るような、棘のある線を投げかけていた。
歓談のが始まり、親族への挨拶回りのとなった。
信夫がちがり、私に軽く頷いた。
「綾子、こう」
「ええ」
私たちはビール瓶をに、親族席へと向かった。
叔父や従兄弟たちに挨拶を交わす、叔母の子が義母の肩を抱くようにしながら、わざとらしくきなため息をついた。
「綾子さん、ずいぶん派な席にお座りになって。美津子姉さん、昨から腰が痛むって言っていたのに、こんな入りの寒そうな席に追いやられて……にねえ」
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子の鋭い線が、私の胸元を射抜く。
かつての私なら、反射に背を丸め、消え入りそうな声で詫びていたはずだ。
『本当に申し訳ありません、私の配慮がりなくて……』と。
だが、私のからたのは、まったく違う言葉だった。
「ご列席いただき、ありがとうございます。お料理はおにいますでしょうか」
私は背筋を伸ばしたまま、穏やかに、しかしミリの隙もなく微笑んだ。
子が言葉に詰まり、眉をひそめる。
「……何よ、が配してあげてるのに」
「どうぞ、最までごゆっくりお過ごしください」
私はく礼すると、度も義母と目をわせることなく、次のテーブルへとを運んだ。
背で、子が何かを呟く気配配がしたが、私の取りが乱れることはなかった。
誰かの嫌を、私が買い取る必はない。
その事実が、私のい留袖の裾を、驚くほど軽やかにしていた。