"新婦母の席札" 第12話
丸のついた返信葉
結婚式の。
季節は完全に晩へと移り変わり、の杏が鮮やかな黄に染まっていた。
佐藤のリビングには、式から届いた最終確定の表と、印刷されたばかりの席次表が広げられていた。
質なに箔が散らされた席次表。
郎婦のメインテーブルのすぐ正面、婦父母の席には、誇らしげに墨文字が並んでいる。
「婦父 佐藤信夫」
「婦母 佐藤綾子」
そして、会の番端、親族席の円卓の最も入りにい席に、
「婦祖母 佐藤美津子」
の名が、さく印刷されていた。
信夫が最通告を送り、優が実で啖呵を切ってから週。
義母からは何の連絡もなかった。叔母たちからの抗議の話も、潮が引くようにピタリと止んでいた。
親族のでどのような会話が交わされたのかは分からない。ただ、信夫と優の徹底した拒絶のに、義母が振りげた拳のやりを失ったことだけは確かだった。
午。リビングの固定話が鳴った。
ナンバーディスプレイには、式のウェディングプランナーの番号が表示されていた。
「はい、佐藤でございます」
『あ、佐藤様のお母様でしょうか。いつもお世話になっております、アニバーサリーアンの担当の佐伯です』
るく丁寧な女性プランナーの声だった。
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「はい、佐伯さん。何か備でもございましたでしょうか?」
『いえ、席次表と引き物の最終確定の件でお話差しげたのですが……実は本、締め切りを過ぎていたお祖母様の「美津子様」の欠ハガキが、式宛に直接届きまして』
臓が、わずかにねた。
「お義母様の……ハガキですか」
『はい。通常はご両でまとめていただくのですが、個別にご郵送されたようでして。ご報告だけといまして』
「……それで、欠の欄は、何と?」
受話器を握るに、わず力が入る。
欠席なら、それでいい。寂しさは残るかもしれないが、波乱は起きない。
もし「席」に丸がついていたとしたら――。
『はい。「御席」の方に、とても達な文字で、綺麗な丸がつけられておりました』
プランナーの屈託のない声が響く。
『メッセージ欄には何もかれておりませんでしたが、ご齢とお伺いしておりましたので、無事にご席いただけるようで私どももいたしました。親族席の末席、子の入りもしやすいお席でそのまま確定させていただいてよろしいですね?』
「……ええ。はい、それでお願いいたします。お数をおかけしました」
通話を終え、受話器を置いた、私はしばらくそのからけなかった。
席。
あの美津子が。
あれほど「主卓でなければない」「恥をかかせる気か」とり狂い、親族を巻き込んで騒ぎてたあの義母が、末席の指定を甘んじて受け入れ、席のハガキを送ってきた。
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「……本当に、来るんだ」
独り言がから漏れた。
勝った、とはえなかった。
むしろ、得体のれないたい緊張が、背筋をいがってきた。
あの美津子が、ただのしいおばあちゃんとして、末席で拍をして引き物を持って帰るだろうか。
プライドをズタズタに引き裂かれ、息子にも孫にも拒絶されたあのが、何の企みもなく、あの華やかな披宴のに現れるだろうか。
夕方、帰宅した信夫にそのことを告げると、夫は席次表を見つめたまま、く唸るように言った。
「来るのか……」
「ええ。佐伯さん、綺麗な丸がついてたって」
信夫は腕を組み、く息を吐いた。
「まあ、親戚の、欠席するわけにはいかなかったんだろう。『孫の結婚式にも呼ばれなかったな寄り』として世に同されるよりは、席して『寛な祖母』を演じる方が、母さんのプライドにはってる」
「でも、信夫さん……当、何かあったら……」
私がをにすると、信夫は私の肩にポンとを置いた。
そのは、週のあの湿って震えていたではなかった。力く、温かかった。
「丈夫だ。司会者にも、キャプテンにも根回しはしてある。表にないきは切させない。何より……俺たちが揺らがない限り、母さんは何もできないよ」
信夫はそう言って、力く微笑んだ。
その夜、私はクローゼットから、当着用するためにレンタルした黒留袖を取りし、ハンガーに掛けた。
つ紋の入った、格式のい正絹の着物。
裾には、波を力く翔する鶴の刺繍が施されている。
、結婚式で私が着たのは、義母が親戚からく借りてきた、丈のわない留袖だった。
「綾子さんにはこれで分よ」と言われ、首をすくめて笑っていたあのの私。
鏡のにち、着物を体に当ててみる。
鏡のに映る歳の私は、もうあの頃の、怯えた物のような顔はしていなかった。
目尻のじわも、し髪の混じった髪も、すべて私がき抜いてきた証だった。
義母が来る。
あの戦で、最の幕ががるのだ。
けれど、議と恐怖はなかった。
私はもう、誰かのために自分の席を譲るつもりはなかった。
婦の母親としての誇りを胸に、私はただ、そのを静かに待っていた。