"新婦母の席札" 第11話
目の毒し
優の話が終わった、喫茶の内には、ジャズのいベースの音だけが虚しく響いていた。
隣に座る信夫は、両で顔を覆ったまま、微だにしなかった。
指の隙から、ポタポタと粒の涙が零れ落ち、テーブルの目を黒く濡らしていた。
歳の夫が、声をさずに肩を震わせて泣いていた。
「……すまない」
信夫の喉から、押し潰されたような呻き声が漏れた。
「優……本当に、すまない。俺が……俺がけない父親だったから、おにそんないを……」
信夫が自分を責める声を、私はどこかい所で聞いていた。
私ののは、真っだった。
(お母さんを憎んだことはなかったよ)
娘の言葉が、の奥で何度も、何度もリフレインしていた。
の鉛。
折られた芯。
泣きじゃくる娘のさなを引きながら、義母と義妹に「すみません、この子ったら聞き分けがなくて」と笑いを浮かべていた、あの正の午。
私はあの、何を守ったつもりだったのだろう。
「の空気」?
「佐藤の平」?
「物分かりのいい嫁という評価」?
全部、嘘だった。
私はただ、自分がられるのが怖かっただけだ。
自分が親族から爪弾きにされる恐怖から逃げるために、まだ歳だった自分の娘のを贄にして、義母のに差ししたのだ。
「……ああ」
喉の奥から、乾いた掠れ声が漏れた。
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止めようとっても、止まらなかった。
胸の奥底で、ずっと分いコンクリートで塗り固めていた何かが、メリメリと音をてて砕け散っていく。
「綾子……?」
信夫が驚いて顔をげた。
優も目を見いて私を見つめている。
私は両で元を押さえたが、涙が滝のように溢れて、止まらなかった。
痛い。苦しい。恥ずかしい。
自分が今まで「美徳」だと信じ込んできたの歳が、ただの卑怯な保と、娘への緩やかな虐待であったという事実が、容赦なく私を打ちのめしていた。
「ごめんね……」
私はボロボロと涙を零しながら、テーブル越しに優のを握りしめた。
そのは、いつのにか私よりもずっときく、頼もしくなっていた。
「ごめんね、優……。お母さん、自分がだとい込んでた。することが正しいって、そうやって波をてないことがあなたを守ることだって……嘘ばっかり。お母さん、自分が傷つくのが怖くて、あなたを盾にしてただけだった……」
しゃくりげる私のを、優が両で包み込んでくれた。
温かかった。
あの、たいで私が握り返してあげられなかった娘のが、今、けない母親のを包み込んでいた。
「もういいよ、お母さん」
優の声は、とても優しかった。
「もう謝らないで。私ね、今おばあちゃんに全部言って、やっと分かったんだ。
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おばあちゃんが怖かったのは、あのがいからじゃない。誰も『NO』って言わなかったからなんだって」
優は私の涙を、指先でそっと拭ってくれた。
「お父さんが『式に来るな』って言って、お母さんが『もう謝らない』って決めて、私が『いらない』って言った。これでやっと、あのは普通の族になれるんだよ。誰かがして成りつ平なんて、偽物だったんだよ」
信夫が、赤く腫らした目を擦りながら、優の肩にそっとを置いた。
「……優。ありがとうな」
信夫の声には、もう迷いはなかった。
母親の嫌を伺う怯えも、妻に責任を押し付けようとするずるさも、完全に削ぎ落とされていた。の父親として、娘の決断を背負う覚悟の顔だった。
「席次表、提する。母さんの席は、番ろの親族席だ。もし当、母さんが暴れるようなことがあったら……俺が力づくで会のにつまみす。優のれ台は、俺たちで絶対に守る」
信夫の言葉に、優は力く頷いた。
のは、いつのにかがっていた。
喫茶の窓の向こうで、濡れたアスファルトが夜の灯を反射して、きらきらとっていた。
私の胸のにあったたい汚のような澱みが、涙と共にすべて流れ落ちていくようだった。
かかった。
本当に、すぎるだったけれど、私たちはようやく、誰の顔も伺わずに息を吸うための所へ辿り着いたのだ。