"新婦母の席札" 第8話
呼びされた娘
翌週の曜、信夫は昨夜の激論の、もできなかったようだった。
しかし、朝の卓に現れた彼の顔には、それまでの迷いや怯えとは違う、ある種の諦に似た険しさが漂っていた。
信夫は黙ってトーストを枚に放り込むと、スマートフォンをに取り、私の目ので画面を操作した。
「……送ったよ」
「何を?」
「母さんにLINEした。『披宴の席次は親族席の末席で確定させた。主卓への着席も、へのしも切認めない。納得できないなら、式には来なくていい。返事は曜の正午まで待つ。返信がなければ、欠席として式に最終提する』って」
信夫はスマートフォンの画面を伏せてテーブルに置いた。
その指先はわずかに震えていたが、私の顔を伺うような線はもうなかった。
「……そう」
私はそれ以、何も言わなかった。
褒めもしないし、慰めもしない。彼が自分で選び、自分で母親に突きつけた刃だ。そのみは、彼自が背負わなければならない。
信夫はく息を吐き、ネクタイを締め直してをていった。
玄関のドアが閉まる音が、いつもよりしだけく響いた。
そのの午、締め切りの静寂が佐藤を包んでいた。
信夫のな通告に対し、義母からの返信はなかった。叔母たちからの抗議の話も、議なほどピタリと止んでいた。
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嵐のの静けさ。
気なほどの沈黙に、私の神経は張り詰めていた。プランナーには「曜の午に最終確定版をお送りします」と連絡を入れてある。これで義母が諦めてくれれば、あるいはり狂って欠席してくれれば、このかった戦いも応の決着を見るはずだった。
午過ぎ。
がリビングを赤黒く染めげる頃、玄関のドアが乱暴にく音がした。
「ただいま」
帰ってきたのは優だった。
いつもなら「あー疲れた」と言ってリビングのソファに倒れ込むはずの娘が、靴を脱ぐなり、まっすぐにリビングへ入ってきた。
そのには、く細い指でく握りしめられたスマートフォンがあった。
「優? かったのね。夕飯、まだできてないけれど――」
「お母さん」
優の声の緊張に、私はを止めた。
娘の顔は青く、眉にはい縦じわが刻まれていた。
「……どうしたの?」
優はダイニングテーブルまで歩いてくると、スマートフォンの画面を私に向けて差しした。
「これ、見て」
画面に表示されていたのは、LINEのトーク画面だった。
送信者の名は「美津子おばあちゃん」。
今の午分――信夫が最通告を送った、わずか数に届いたメッセージだった。
画面に並んだ文字を追ううちに、私の背筋にたい汗がツーと流れ落ちた。
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『優ちゃん、お仕事お疲れ様。
お父さんからずいぶんと酷い連絡をもらって、おばあちゃんはショックで寝込んでいます。
でもね、優ちゃんには何の罪もありません。優ちゃんは佐藤の切な初孫ですものね。
お父さんやお母さんには内緒で、の仕事帰りに実へ寄りなさい。
おじいちゃんの形見の品と、佐藤に代々伝わる本真珠のネックレスを、あなたにお譲りしたいの。
それから、結婚のお祝いとして用していた定期預の通帳も、直接あなたのにお渡しします。
これからのあなたの結婚活のために、どうしても伝えておかなければならない佐藤の決まり事もあります。
おばあちゃんは、優ちゃんだけが頼りなのよ。の夜、待っていますね』
画面の文字が、歪んで見えた。
本真珠のネックレス。
それは、義父が、義母の還暦祝いに贈った最級のミキモトの真珠だった。義母が何よりも誇りにし、親戚の集まりのたびにこれ見よがしににつけていた、美津子の「権威の象徴」そのものだ。
そして、定期預の通帳。まとまった額の資を餌にして、孫を懐柔しようとしているのはだった。
「おばあちゃん……お父さんには何も言い返さずに、私に直接連絡してきた」
優の声は、激しいりと戸惑いで震えていた。
「お父さんとお母さんをび越えて、私を方に引き入れるつもりなんだよ。この真珠と通帳を私に押し付けて、『おばあちゃんを主卓に座らせてちょうだい』って、私からお父さんに頼ませる気なんだ」
絡め。
信夫がにたのを見て取るや、義母は標を瞬に変更したのだ。
番断りにくく、番「結婚式を台無しにしたくない」と願っているはずの、当事者である孫娘へ。
「優……」
私の声が震えた。
義母の執のさに、めまいがした。
このは、どこまでこの族を支配しなければ気が済まないのだろう。息子のをへし折り、嫁の尊厳を踏みにじり、今度はこれからしい庭を築こうとしている孫娘の結婚式まで、自分の権力闘争の具にしようとしている。
「どうするつもりなの?」
私が尋ねると、優は唇を血がにじむほどく噛みしめた。
「くよ」
「優!」
「逃げない」
優はスマートフォンの画面を消し、私をまっすぐに見据えた。その瞳には、かつて玄関で私を射抜いたと同じ、凛としたいが宿っていた。
「お父さんもお母さんも、かけてやっと、おばあちゃんに『NO』を言えたんでしょ。今度は私の番だよ。私の結婚式を、あのの見栄の具になんか絶対にさせない」
優はバッグをテーブルに置き、静かに言った。
「、おばあちゃんに会ってくる。
そして……全部、終わらせてくる」
窓のでは、の夕が急速にをみ込んでいた。
戦いの台は、夫婦のをれ、次世代の娘へと引き継がれようとしていた。