"新婦母の席札" 第6話
回の着信音
親族からの話を突っぱねた代償は、像以にく、そして湿な形でがに押し寄せてきた。
披宴の最終座席表の提締め切りまで、あと。
義母の美津子は、私への連絡を完全に断った。
私を「話の通じない無礼な嫁」として切り捨てることで、庭内の序列から完全に排除する作戦にたのだ。
その代わりに、すべての攻撃の矛先が、たったの息子である信夫に向けられた。
に回、回。
信夫のスマートフォンが、朝の通勤、昼休み、夕方の退勤、そして夜に及ぶまで、狂ったように鳴り続けた。
義母だけではない。名古にむ義理の伯父、横浜の従兄弟、果ては義父が懇にしていた寺の職からまで、信夫の元へ話が入った。
「美津子さんを泣かせるな」
「男としての責任はどうなっている」
「式を目にして親を切り捨てるなど、世が許さない」
堀を埋め、孤させ、精神に兵糧攻めにする。
それが、佐藤という古い親族が培ってきた、秩序を守るための処刑順だった。
信夫は目に見えて削れていった。
もともと温で、争いごとを極端に嫌う男だ。会社では堅管理職として板挟みになり、に帰れば親族からの非難を浴びる。
帰宅するはを追うごとに遅くなり、夜を回ることも珍しくなくなった。
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ある曜の夜、午半。
玄関の鍵が頼りなくき、信夫がい取りで入ってきた。
スーツにはいシワが寄り、ネクタイは斜めに緩められ、ワイシャツの襟元は汗で黄ばんでいた。何より、その顔には気が混じり、目のには黒々とした隈が張り付いていた。
「……おかえりなさい。お呂、沸いてるわよ」
私がリビングから声をかけると、信夫は力なく首を振った。
「いや、いい。……何か、むものあるか」
私は蔵庫から麦茶をそうとしたが、信夫はキッチンカウンターに置かれていたウイスキーのボトルにを伸ばした。氷も入れず、ショットグラスに茶い液体を注ぎ、喉を鳴らして気に煽る。
胃を焼くアルコールの刺激に、信夫の顔が苦痛に歪んだ。
「信夫さん、すきっ腹にそんないお酒……」
「まなきゃ、やってられないんだよ」
信夫はドサリとダイニングチェアに腰を落とし、両でを抱え込んだ。
その背は、以よりも回りさく見えた。
テーブルので、信夫のスマートフォンがブ、ブ、と鈍い振音をてた。
画面が点灯する。
発信元は「母」。
夜分の着信だった。
信夫は画面を見つめたまま、微だにしなかった。受話器を取ることも、拒否ボタンを押すこともできず、ただそのを、呪われた遺物でも見るような目で見つめている。
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やがてバイブレーションが止まり、リビングに再び苦しい静寂が戻った。
「……さっき、会社をるもかかってきた」
信夫が、乾いた唇から絞りすように言った。
「たらさ、泣いてるんだよ。『お父さんがきていたら、こんな仕打ちは受けなかった』って。『おを学までして、に育てげた恩を、こんな形で返すのか』ってさ」
「信夫さん……」
「伯父さんからもメールが来たよ。『母親を式から追いすような親孝者は、佐藤の墓に入る資格はない』ってさ。……俺、そんなに悪いこと言ったのかな」
信夫の声が震えていた。
歳の男が、まるで親に叱られた子どものように怯え、途方に暮れていた。
私の胸の奥で、眠り続けていた「滅私奉公」の怪物が、鎌首をもたげそうになった。
(私が謝ればいい)
(、私が義母のところへって、座でも何でもすればいい)
(「信夫さんは悪くありません、全部私が焚きつけたんです」と嘘をつけば、親戚の矛先は私に向かい、信夫は解放される)
信夫を救いたい。
この痛々しい夫を、今すぐこの苦しみから引きずりしてあげたい。
私がを被れば、の朝にはこの着信音は止まるのだ。
それは私にとって、最も慣れ親しんだ、最もっ取りい「解決法」だった。
私はエプロンのポケットので、拳を爪がい込むほどく握りしめた。
優の言葉が、の奥で霊する。
『お母さんがそうやってをげるから、おばあちゃんは自分のりには価値があるって学習しちゃったんだよ』
違う。私がここで助け舟をしたら、信夫は、母親の呪縛から逃れられない。
そして何より、信夫自が言ったのだ。
「今回もおが謝りにったら、俺は、自分を軽蔑することになる」と。
私はグラスにもう度を伸ばそうとした信夫のを、そっと押さえた。
「信夫さん。お酒はもうやめて、温かいお茶にしましょう。胃が荒れちゃうわ」
信夫は焦点のわない目で私を見げた。
その瞳には、かつて私を庇ってくれたの鋭さはなく、ただ誰かにすがりつきたいという、無防備な依のだけが浮かんでいた。