みかん小説
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"新婦母の席札" 第1話

主卓の席札

朱塗りの盆に乗せられた急須から、細い湯気がちっていた。

創業百余を誇る本の料亭。畳の部には、季節れのえ込みを遮るようにが効かされていたが、私の指先はずっとたいままだった。

「綾子さん、お茶」

く、しかし部の隅々までよく通る声に、私の背筋が無条件で伸びる。

声の主は、私の正面に座る義母・美津子だ。御歳。髪をきっちりと撫で付け、背筋を本の狂いもなく伸ばしている。

「あ、申し訳ありません。すぐにお淹れします」

私は元のほうじ茶の温度を確かめ、義母の湯呑みの分目まで丁寧に注いだ。

濃すぎず、すぎず。義母が好む温度は、湯から呼吸置いた度。結婚して、私の体にはその覚が染み付いている。

今は、娘である優の結婚式をひとに控え、披宴の最終と親族の座席表を確認するための集まりだった。

郎側との顔わせは先週滞りなく終わり、このにいるのは内だけだ。

私の隣には夫の信夫、そして私の向かい側、義母の隣には当事者である優が座っている。

優は膝のに置いたスマートフォンを気にしながら、どこか居悪そうにおしぼりを指先でいじっていた。歳になった娘は、メーカーで総職として働いている。

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自がく、普段は物怖じしない性格だが、祖母である美津子のでは昔から数が減る。

「それで、席次の最終確認だけれど」

義母は老鏡のブリッジを差し指で押しげ、テーブルの央に広げられたA3用のコピーに目を落とした。

式から届いたばかりの、披宴会のレイアウト図だ。円卓が然と並び、郎婦のメインテーブルに最もい位置に「婦父母卓」と印刷されている。

義母の細い指先が、その卓のつの席札のでぴたりと止まった。

印刷されている名は、「佐藤信夫」「佐藤綾子」。

「ここ、き直してもらいなさい」

義母は何気ない調で、湯呑みを元に運びながら言った。

私は瞬、聞き取れなかったのかとい、義母の顔を見つめた。

「……き直す、と申しますと?」

「婦の母親の席よ。ここに、私の名を入れなさい」

カタン、とさな音がした。

優がグラスをテーブルに置いた音だった。娘の目がきく見かれ、義母に向けられる。

しかし、義母は孫の線など気にも留めず、淡々と続けた。

「向こうのご両親は、お父様が元商会議所の役で、お母様も元華の師範だそうじゃないの。格式のあるご庭よ。それに対して、うちは信夫が普通のサラリーマンで、綾子さんは世らずのパート勤め。勢の来賓や親戚のに並んで座るには、々荷がいでしょう」

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「おばあちゃん、何を言って――」

優がを乗りしかけたのを、私は机ので娘の膝にそっと触れて制した。

、私がき延びるために使ってきた反射神経だった。誰かが声を荒らげるに、自分が歩退く。そうすれば、嵐は最限の被害で通り過ぎる。

「お義母様のおっしゃることも分かります。私などより、お義母様が座られた方が、佐藤としても格式が……」

「そうよ。よく分かっているじゃない」

義母は満そうに元を緩め、扇子で元のをトントンと叩いた。

「くなったお父さんの名代として、佐藤の老である私が主卓に座る。それが番座りがいいの。綾子さんはほら、くの親戚や従兄弟たちが座る末席の方に席を移してもらって、ビールのお酌でもして回っていればいいわ。お酌や雑用なら、普段から慣れているでしょう?」

親戚の末席。

婦の母親でありながら、い親戚にをげて酒を注いで回る役。

それは事実の、親族席からの追放であり、母親としてのの否定だった。

それでも、私の胸に最初に湧きがったのはりではなかった。

「ここで私が頷けば、このは丸く収まる」という、恐ろしいほどの慣性と諦めだった。

娘のれののに、余計な波をてたくない。義母をらせれば、披宴当まで親戚を巻き込んだ嫌がらせが続く。

それなら、私がすればいい。いつものように。

私は元に、で完璧に磨きげた「物分かりの良い嫁」の笑みを張り付けた。

「はい。私はどこでも構いませんので。優のれ姿が見られれば、それだけで――」

そこまで言っただった。

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