"「実の親じゃない」と夫に言われた日" 第12話
斎のドアと最通牒
霊園からの帰り、美咲の取りは驚くほど軽やかでした。
「真紀さん、お腹すいた。今、何べる?」
「何がいい?」
「豚汁。あの、赤噌をし混ぜるやつ」
美咲が照れくさそうに笑いながら言いました。その笑顔には、もうあののようなろめたさは微もありませんでした。
午、私たちが自宅の玄関をけると、廊の奥から苦しい沈黙が漂ってきました。
リビングのソファに、浩司が腕を組んで座っていました。
テーブルのには、野のから届いた提類のが、つかずのまま置かれていました。
「……どこへってたんだ」
浩司は顔もげずに、く濁った声で尋ねてきました。
「お墓参りです。佳乃さんにご挨拶してきました」
私が淡々と答えると、浩司はビクッと肩を震わせ、苦虫を噛み潰したような顔で美咲を見ました。
美咲は父親から線を逸らしませんでした。以のように怯えてうつむくことも、に鳴り返すこともなく、ただ静かに、凛とした瞳で父親を見据えていました。
「美咲。部へって、面接で話す内容を理しておきなさい」
「うん、分かった」
美咲は素直に頷き、階段をっていきました。
階のドアが静かに閉まる音を確認してから、私はリビングのドアを閉めました。
カチャリと鍵をかける音が響くと、浩司が苛ったように顔をげました。
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「何のつもりだ。美咲を連れ回して、何を吹き込んできた」
「吹き込んだのではありません。美咲のの荷を、ろしてきただけです」
私は浩司の向かいの席に座りました。
そして、鞄から枚のを取りし、テーブルの央に滑らせました。
幹線の領収と、野きの指定席券の予約確認でした。
「の曜、美咲の最終面談です。朝の幹線に乗ります」
浩司は領収に線を落とし、それから私を睨みつけました。
「誰が許した。俺はまだ、野の受験を認めたわけじゃないぞ。体、親の同にサインしてないんだから、面談にったって無駄だ!」
「美咲はきます。あなたの許がなくても、推薦を取り消されたとしても、般入試で受け直すと言っています。そのための費用は、私のパートの貯からします」
「真紀! お、いい加減にしろ! これは俺たち親子の問題だ! おがしゃしゃりる筋いはないだろうが!」
浩司が鳴り声をげ、テーブルをドンと叩きました。
また、同じ言葉でした。
都が悪くなると、すぐに「親子の問題」「部者」という壁をてて逃げ込もうとする。
けれど、今の私には、その声がひどく滑稽で、れなものにしか見えませんでした。
私は微だにせず、浩司の充血した目をじっと見つめ返しました。
「浩司さん。
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よく聞いてください」
私の声は、内の空気を切り裂くように静かでした。
「の面談には、あなたも来てください。美咲も、父親であるあなたに同席してほしいと願っています」
浩司が瞬、虚を突かれたようにを半きにしました。
「……え?」
「美咲は、あなたを拒絶したいわけではありません。あなたに自分のむを認めてほしいだけです。だから、緒にきましょう」
浩司の表が、わずかに緩みかけました。自分がまだ必とされているのだと、堵のがその瞳に宿りかけました。
ですが、私は容赦なく、その淡い甘えを断ち切りました。
「ただし、条件があります」
「……条件?」
「ええ」
私は背筋を伸ばし、はっきりと告げました。
「面談の席で、緊急連絡先の欄に保護者の氏名を記入することになります。その、もしあなたが以のように『おは実の母親じゃないから関係ない』と私を排除しようとしたり、逆に責任を取りたくないからと私にだけ丸投げしようとしたら――」
浩司の息が止まりました。
「美咲が野の寮に入ったそので、私はこのをます」
リビングのすべての空気が、凍りつきました。
浩司は目を見き、信じられないものを見るように私を凝しました。
「お……何を言ってるんだ……?」
「婚する、ということです」
私は枚の、すでに私の署名だけをき終えた緑の用を、鞄から取りしてテーブルのに置きました。
婚届でした。
浩司の顔から、気に血の気が引いていきました。
「、私はあなたにとって都のいい政婦でした。母親としての労働だけを押し付けられ、母親としての位置は度も与えられなかった。美咲が旅つなら、もう私がこのに残る理由はありません」
浩司のが、刻みに震え始めました。
彼は今、初めて理解したのです。
自分が踏みにじってきたものが、どれほど取り返しのつかないものであったかを。
そして、自分がっている元が、とっくに崩れる寸であったことを。
「美咲の母親としてきることを認めるのか。それとも、すべてを失ってでこのに残るのか」
私はちがりました。
「選ぶのは、浩司さん、あなたです」
私は斎のドアをけ、度も振り返ることなくそのをちりました。
背から、がくりと膝を落とすようない音が聞こえていました。
決着のは、。
の々に囲まれた野ので、私たちは本当の族になれるのか、それとも完全に終わりを迎えるのか。
運命の朝が、すぐそこまで迫っていました。