"「実の親じゃない」と夫に言われた日" 第11話
墓ので溢れた涙
霊園は、駅からバスで分ほどの台にありました。
々の葉はすっかり落ち、たいが吹き抜ける静まり返った所でした。
浩司の姿はありませんでした。今朝、私たちがをる、彼は寝のドアを閉めたまま、顔をすことすらありませんでした。
「……ここだよ」
美咲がち止まったのは、当たりの良い斜面に並ぶ角でした。
黒御の墓には、『神先祖代々之墓』と彫られていました。
墓には、に向けられたとわれる枯れたリンドウが、茶く縮んで残っていました。浩司がここ数ヶ、度もを運んでいない証拠でした。
私は持参した桶からを汲み、墓に柄杓で静かにをかけました。
たいがの表面を滑り落ち、積もっていた埃を洗い流していきます。
てをタワシで磨き、買ってきた百とトルコキキョウをに分け入れました。線にをつけ、のに横たえると、甘く澄んだ煙が真っ直ぐにの空へとちっていきました。
美咲はずっと、私の斜めろでその様子を見つめていました。
「美咲、おいで」
私が声をかけると、美咲はおずおずとにみました。
階の仏壇のでをわせたことは何度もありましたが、こうして実の母親の眠る所で、で並びつのは初めてのことでした。
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私は胸ので静かにをわせました。
(佳乃さん。初めまして、神真紀です)
ので、語りかけました。
(あなたが命を懸けて産み落とした美咲ちゃんは、こんなにきくなりました。るのが速くて、し頑固で、誰よりも優しくて、周りのの痛みに敏な、本当に素敵な女の子です。あなたが育てたかったを、私が代わりに過ごさせてもらいました。本当に、ありがとうございます)
隣から、かすかなをすする音が聞こえました。
美咲が、両で顔を覆って泣いていました。
「……お母さん」
美咲のから、掠れた声が漏れました。
それは、私に向けられたものではなく、のに眠る実の母に向けられた呼びかけでした。
「ごめんね……私、ずっとお母さんのこと、忘れちゃいそうだったの。お母さんの声も、のおっきさも、だんだんいせなくなってきて……真紀さんのご飯のばっかり、覚えちゃって……」
美咲の細い指のから、涙がボロボロとこぼれ落ちました。
「お父さんが、真紀さんに甘えちゃダメだって言ってたのに……私、真紀さんのこと、お母さんみたいだなってっちゃったの。邪引いたも、制縫ってくれたも……すごく嬉しかったの。お母さんを裏切って、ごめんなさい……!」
美咲はそのに崩れ落ちるようにして、墓のに膝をつきました。
たい敷のに座り込み、さな子供のように声をげて泣きじゃくる美咲の肩を、私は背からしっかりと抱き止めました。
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「美咲。違うのよ」
私は美咲の元で、静かに、けれど絶対に揺らがない確信を込めて言いました。
「しいお母さんを好きになることはね、のお母さんを捨てることじゃないの」
美咲のしゃくりげる呼吸が、ピタリと止まりました。
「佳乃さんはね、あなたが私と笑っているのを見て、ったりなんかしないわ。もし私があなたの母親なら、自分がんだ、自分の子供をからして、毎温かいご飯を作ってくれるが現れたら……そのに『ありがとう』って言うわ。『うちの子をよろしくね』って、絶対に笑ってくれる」
美咲がゆっくりと顔をげました。涙とでぐしゃぐしゃになった顔で、私を見げました。
「本当に……?」
「ええ、本当よ。あなたはの母親を、同にしていいの。どちらかを選ぶ必なんて、最初からどこにもなかったのよ」
が吹き抜け、供えたばかりの百のびらが微かに揺れました。
お線のりが、優しく私たちの周りを包み込んでいました。
美咲はちがり、墓に向き直りました。
そして、コートのポケットから、あのクッキー缶を取りしました。
蓋をけ、に入っていたあの赤い糸のついた名布を、震える指先で取りしました。
「お母さん」
美咲は墓に向かって、今度ははっきりとした声で言いました。
「私、野の学にきたい。
農業の勉をして、いつか自分ので野菜やを育てたい。逃げるためじゃないよ。このが嫌いだからくんじゃない。私、自分のでちたいからくの」
美咲は名布をそっと缶に戻し、胸に抱きしめました。
「真紀さんが作ってくれた名布、持ってくね。お母さんの写真も、緒に持ってくね。私、どっちも切にして、頑張るから」
の太陽がの切れから差し込み、美咲の涙で濡れた頬をかく照らししていました。
、この子のを縛り続けていた見えない呪縛が、音をてて解けていく瞬でした。