"「実の親じゃない」と夫に言われた日" 第10話
仏壇の引きしとい
美咲の体は、驚くほど軽くて、そして刻みに震えていました。
私の胸元に顔を埋めた美咲の涙が、エプロンを通り越して私の肌に染み込んできました。
「ごめんね……ごめんね、美咲。全部、の都だったのよ」
私は美咲の背にを回し、何度も何度もそのさな背をさすりました。
、度も抱きしめてあげたことのなかった体でした。
触れれば壊れてしまいそうで、触れる資格など自分にはないとい込んで、いつも指先つ分の隙を空けて接してきた体でした。
その温もりは、紛れもなく、私が守り育ててきた娘の体温でした。
その夜、浩司が帰宅したのは夜過ぎでした。
酒の匂いを微かに漂わせ、玄関で靴を脱ぎ散らかしながら入ってきた浩司は、リビングの異様な静けさにを止めました。
美咲は泣き疲れて、自分の部で眠りについていました。
リビングには私だけが、ダイニングテーブルに座っていました。
テーブルのには、つのものが置かれていました。
つは、仏壇の奥の引きしから取りしてきた、美咲の実の母親の古いアルバム。
もうつは、野県農業拓陽の「最終面談案内票」でした。
浩司はコートを脱ぎかけたままで、怪訝そうに眉をひそめました。
広告
「……なんだよ、それ。なんで佳乃のアルバムがてるんだ」
佳乃さん。に病気でくなった、浩司の妻であり、美咲の実の母親の名でした。
浩司はこので、佳乃さんの話題をすことを極端に避けていました。それを彼は「真紀への配慮」だと言い張り、同に「者への敬」だと美咲にい込ませていました。
ですが、実態は違いました。
浩司はただ、んだ妻のと、きている再婚相の現実の、どちらとも正面から向きえない臆病な男だったに過ぎません。
「、美咲と緒にお墓参りにってきます」
私が静かに告げると、浩司の顔が変わりました。
「……は? お墓参り? 佳乃の命は来だぞ。体、なんでおがくんだよ。おがっても、気まずいだけだろうが」
「気まずいのは、あなたでしょう」
私の声は、く、けれど刃物のように研ぎ澄まされていました。
「な……何だと?」
「美咲が歳のから、毎のお墓参りに、あなたは私を絶対に連れてきませんでしたね。『真紀がくのは自然だ』『佳乃の親族もいるから』と言って、私をに残していきました」
「それは、おに気を遣って……!」
「いいえ。あなたは美咲に『真紀さんに甘えすぎるな、んだ母さんに申し訳ないとえ』と言い聞かせていたそうですね」
浩司の喉が、ヒュッと音をてて詰まりました。
彼の目が激しく泳ぎ、額に脂汗が浮かびました。
広告
「そ、それは……子供のの理としてだな……」
「その結果がこれです」
私はテーブルのの面談案内票を指先で叩きました。
「美咲は、私を母親と呼ぶことがくなったお母さんへの裏切りだと信じ込まされ、、でその罪悪に押し潰されそうになっていました。そして、都のいいだけ私を母親扱いし、肝なのには『実の母親じゃない』と切り捨てるあなたの卑怯さに耐え兼ねて、このから逃げそうとしているんです」
「俺は……俺は族のために……!」
「あなたは何も守っていません」
私はちがりました。
浩司の目を、真っ直ぐに見据えました。
「の朝、美咲と佳乃さんのお墓へきます。あなたが来たいなら来ても構いません。けれど、またいつものように曖昧な言い訳で逃げるなら、度と美咲のにをさないでください」
浩司は唇を震わせ、何かを鳴ろうと拳を握り締めましたが、私から放たれる気迫に圧されたのか、結局言も言い返すことができませんでした。
翌朝、の澄んだ青空が広がっていました。
私は駅ので、真っな百とトルコキキョウの束を買いました。
美咲は紺のダッフルコートを着て、私の隣を静かに歩いていました。
そのには、昨まで頑なに隠していた、野の学案内パンフレットが握られていました。