"「実の親じゃない」と夫に言われた日" 第8話
スマホに残された付けのメモ
翌週の曜の夕方でした。
美咲は学帰りに図館で面接の論文対策をすると言って、珍しく遅くまでかけていました。
リビングの掃除をかけていた私は、ダイニングテーブルの隅で、微かに震えるスマートフォンに気づきました。
美咲のスマートフォンでした。急いでをたのか、充器のコードに繋がれたまま置き忘れられていたのです。
画面には、友からの「図館ついたよー」というLINEのポップアップ通が表示されていました。
私は掃除を止め、コードにを引っ掛けないよう、スマートフォンを持ちげてサイドチェストに移そうとしました。
その、画面の通が消え、バックグラウンドでいたままになっていたアプリケーションの画面が、瞬だけ界にび込んできました。
標準の「メモ」アプリでした。
タイトルには、平仮名でぽつんと、こうかれていました。
『うちのごはん』
私の指が、画面ので止まりました。
の記を盗み見るようなろめたさが胸をかすめました。けれど、そこに並んでいた箇条きの文字に、私の目は釘付けになってしまいました。
・豚汁:根と参はいいちょう切り。ごま油で豚肉と緒にしっかり炒めてから汁を入れる。を止める直に、姜のすりおろしをさじ半分。
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噌はふたつまみ分、赤噌を混ぜる。
・卵焼き:卵個に対して、だしさじ、みりんさじ、砂糖はさじ半分。し甘め。巻き簾を使わないで、フライパンの角で形をえる。
・鶏のから揚げ:醤油さじ、酒さじ、姜とニンニク。片栗は揚げる直にぎゅっと揉み込む。度揚げする。
・かぼちゃの煮物:面取りを必ずする。皮をにして並べる。砂糖を先に入れて分置いてからにかける。
スクロールする指が、かすかに震えました。
そこには、私がこの、毎のように台所で作ってきた料理の、細かな順と付けの配が、几帳面な文字でびっしりとき残されていました。
私は美咲に、料理を教えたことはほとんどありませんでした。
『伝おうか?』と美咲が台所に来てくれたも、『受験なんだから勉してていいのよ』と、なるべく負担をかけないようにで包丁を握ってきました。
美咲は、見ていたのです。
私がどの調料をどれくらい入れ、どんな夫をして卓にしていたのかを、カウンターの向こうから、じっと見つめていたのです。
そして、い野の寮へく準備として、その付けをつ残らず、自分のスマートフォンにき留めていました。
目の奥が、焼けるようにくなりました。
涙がこぼれ落ちそうになり、私は慌ててスマートフォンの源ボタンを押し、画面を暗転させました。
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(……どうして)
胸の奥が張り裂けそうでした。
こんなにも私のを連れてこうとしている子が、なぜ「このにいたくない」と言わなければならなかったのか。
午半、玄関のドアがき、りの音が響きました。
「ただいま! ごめん、スマホ忘れていっちゃって……!」
息を切らした美咲が、リビングにび込んできました。
テーブルので黒い画面のまま置かれているスマートフォンを見つけると、美咲は底ほっとしたように胸を撫でろしました。
「あ、あった……よかった」
美咲がを伸ばした、私はキッチンのシンクので、根の皮を剥いていました。
包丁をまな板のに静かに置き、濡れたを布巾で拭きました。
「美咲」
私の声に、美咲はスマートフォンを握りしめたまま、ピクリときを止めました。
「メモ……見ちゃったの?」
美咲の顔が、瞬で真っ赤に染まりました。
まるで、誰にも見せてはいけない秘密の記を暴かれたかのように、彼女の瞳が激しく揺れ、唇がわなわなと震えていました。
「……勝に見ないでよ」
消え入りそうな、りと恥ずかしさの混ざった声でした。
私は美咲のに歩み寄りました。
「ごめんなさい。かそうとしたに、画面がついて見えてしまったの。……責めるつもりはないわ。ただ、美咲」
私はまっすぐに、歳の女の瞳を見つめました。
「あなた、本当は……野にきたいわけじゃないんじゃないの?」
その言葉は、私の胸の奥底から絞りされた、偽らざる問いでした。
「私の料理を全部メモして、名布を切にしまって、週末に帰ってこられるかを配して……そこまでして、どうしてくの全寮制にかなきゃいけないの? にいていいのよ。が嫌なら、の通える学を緒に探しましょう。私が浩司さんに――」
「違う!」
美咲が激しく叫びました。
彼女の瞳から、粒の涙がぼろぼろと溢れし、頬を伝ってに落ちました。
美咲はスマートフォンを両でく抱きしめ、全を震わせながら私を睨みつけました。
それは、拒絶の目ではありませんでした。
、誰にもぶつけることのできなかった、底なしの鳴でした。
「真紀さんは、何も分かってない……!」
「美咲……」
「そんなに優しいなら、なんで……なんで言ってくれなかったの?!」
美咲の声が、夕暮れのリビングに鋭く突き刺さりました。
「真紀さん、この……どうして度も、『お母さん』って呼んでって言ってくれなかったの?!」
静寂が、部を支配しました。
計の秒針の音すら消えり、美咲の荒い呼吸だけが響いていました。
私はそのに縫い止められたように、歩もくことができなくなっていました。